Entertainment

東方神起の新曲「Time Works Wonders」に香る、UKポップスの上品さ

 今やすっかり下火になってしまったK-POPブーム。国家間のいざこざが国民感情にまで影響を及ぼしたこともありそうですが、K-POPにあまりにも粗悪品が多かったのも事実。  しかしそんな中でも確固たる人気を保っている東方神起は、やはり曲がいいのですね。11月5日にリリースされたニューシングル「Time Works Wonders」は、そのことを再認識させてくれる佳曲でした。
Time Works Wonders

『Time Works Wonders』(avex trax)

作曲は知る人ぞ知るUKポップスのソングライター

 エレキギターのカッティングとピアノの中音域が生む小気味よいグルーヴに、フォーキーソウルの王道を行くコード進行を存分に活かしたメロディライン。サビに入るとホーンセクションと少し歪ませたギターがボーカルの間を縫うようにハーモニーを編んでいく。実に上品なポップソングなのです。 ⇒【YouTube】東方神起 / 「Time Works Wonders」(Short ver.) http://youtu.be/V6pcRF-olm8  となると気になるのは作曲のクレジット。調べると、ピーター・ゴーデノとジェイミー・ハートマンという名前が。実はこの二人、知る人ぞ知るUKポップスのソングライターなのですね。ゴーデノは「Personal Jesus」や「I Feel You」などの大ヒットで知られるデペッシュ・モードとの共演経験があり、ハートマンはかつてBen’s Brotherというインディーポップのバンドを結成。のちにソロで活動し、ウェストライフやアナスタシアなどのアーティストへ楽曲提供もしている、いずれも玄人はだしの作家なのです。

東方神起ファンも気に入るかもしれない3曲

 だからでしょうか、最初に「Time Works Wonders」を聴いて浮かんだのがいくつかのUKポップスの名曲でした。そこで、この曲をきっかけに東方神起のファンも気に入るかもしれない3曲をご紹介しましょう。  まずは1997年の大ヒット、ナタリー・インブルーリアの「Torn」。歯切れのよいアコースティックギターやコードの使い方など、曲全体のイメージが「Time Works Wonders」とよく通じています。もともとアメリカのオルタナバンドの持ち歌だったスローで重厚感のある曲を、真逆の爽快感あふれるアレンジで大ヒットさせてしまった解釈の妙が光る一曲でもありました。 ⇒【YouTube】Natalie Imbruglia‐Torn http://youtu.be/VV1XWJN3nJo  このように軽やかでマイルドな曲調に力を抑えた男性ボーカルが乗るという組み合わせで通じるのが、2003年のナンバー1ヒット、ウィル・ヤングの「Leave Right Now」です。こちらは同じアコースティックギターでもオープンコードを多用した中低音のアルペジオがメインで、そこに慎ましやかなフレージングのストリングスが絡むぐらいのシンプルなアレンジ。しかしそれが曲のジェントルなイメージを際立たせている。「Time Works Wonders」と曲のタイトルが歌われる部分の滑らかさにも、同じ感触があるように思います。 ⇒【YouTube】Will Young‐Leave Right Now http://youtu.be/WbrSLLv0AlA  そして最後は誰もが知っている世界的大ヒット。ピーター・フランプトンの「Baby I Love Your Way」。映画『リアリティ・バイツ』で使われたビッグ・マウンテンによるレゲエバージョンがあまりにも有名ですね。  この曲の途中にある<But don’t hesitate’cuz your love won’t wait>、そして「Time Works Wonders」の<時間がお互いを 素直にしてくれたなら>というそれぞれのフレーズを聴き比べると、メロディ、コード、歌詞の意味がうまいことマッチしていることに気付くかもしれません。これを作曲のゴーデノ、ハートマンと作詞を担当した井上慎二郎による隠れたファインプレーと見るのは深読みしすぎでしょうか。 ⇒【YouTube】Peter Frampton‐Baby I Love Your Way(FCA! 35 Tour – An Evening With Peter Frampton) http://youtu.be/HN0fneIQhJk  ともあれ東方神起の「Time Works Wonders」には、そこから色々な音楽が好きになるきっかけを与えてくれる親切さと懐の深さがある。マニアをうならせる手さばきでの引用ではなく、気付かぬうちに織り込まれているポップスの命脈を感じさせる奥行きに満ちた一曲だと言えるでしょう。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ