ジョン・レノン、ミュージシャンとしての偉大さと奇妙さ

⇒【前編】ラブ&ピースの枠には収まりきらない『ジョン・レノン』という劇薬
ジョンとヨーコの人形

カナダのGrevin museumにあるジョンとヨーコの人形。なんかこわい…

狂気を感じるレノンだけのタイム感

 そしてパフォーマー、ソングライターとしてのレノンを考える際に避けて通れないのが独特のタイム感です。ジョージ・ハリスンも困惑したカウントの取り方で始まるのが、「Instant Karma」でした。冒頭、レノンが数える「Three,four」が実際の演奏と何一つ合っていないのがすごい。にもかかわらず、何事もなかったかのように曲が進んでいく。一体レノンは曲のどこを思い浮かべて3と4だとしたのか全く理解できません。  この不可解なタイム感が、そのままソングライティングに表れたのが「How?」(アルバム『Imagine』収録)。曲の途中にあるナチュラルな変拍子によるブレイクもさることながら、歌いだしから句またがりの連発に狂気を感じます。  この詞を小節ごとに分けると<How can I go forward when I> <don’t which way I’m facin’> <How can I go forward when I> <don’t know which way to turn> となる。もちろん、句またがり自体はとりたてて目新しい技術ではありません。  しかし、同時にメロディも小節を横断して、いわばだらしなく一息にさせられていることが「How?」という曲の特徴であり気味悪さなのです。  たとえば、レナード・コーエンの「Hallelujah」と比較してみると分かりやすいと思います。この曲の詞も小節ごとに分けると、<Now I’ve> <heard there was a secret chord that> <David played and it pleased the Lord , But> <you don’t really care for music> <do you ?> となる。同じように句またがりであっても、意味を追いながら詩を読んで体が納得する確かな感覚があり、メロディとともに歌ったときの音符の割り当てにいささかの違和感もない。  しかし「How?」は、この腑に落ちる瞬間を与えてくれないのです。調性から外れた音が出て来るわけでも、びっくりするような和音が使われているわけでもない。ただジョン・レノン本人の時間軸がずれているだけで、つかみどころをなくしてしまう。まるで清書されることを拒むように。そしてこの弱々しい抵抗こそが、“平和”や“反戦”のメッセージ以上に雄弁であろうことは言うまでもありません。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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