世界の居酒屋の“テキトー料理”が家でも作れる。ディープな番組『世界入りにくい居酒屋』
ここ数年で急増した、酒場探訪モノの番組。多くはガイドブック的なお役立ち感で終わってしまいがちですが、そんな中、異彩を放つのが『世界入りにくい居酒屋』(NHK BSプレミアム 毎週木曜23:15~45 放送)
マルセイユ、ハノイ、カンクン、エディンバラ…。番組では、毎週ひとつの都市を取り上げて、地元っこしか知らない居酒屋を訪ねます。さらに、そこで出た“雑な料理”を作って、スタジオで実食するのです(裏で料理してるのはなんと番組プロデューサーだとか)
軽い観光気分では入れないディープなスポットだからこそ、お酒や食事の背景にある文化と歴史が見えてくる。加えて、店主が歩んできた人生や、客のバックグラウンドも手際よく織り込まれることで、酒場のキャラクターが立体的に浮かび上がってくる。女子ウケしそうなかわいらしい演出とは裏腹に、観た後の満足感はどっしりとしている。なかなか侮れない番組なのです。
そんな地元の人たちの“濃い”飲みっぷりをウォッチしながらナレーションをする女性タレントが、バラエティ番組とは違った表情を見せるのも興味深いところ。毎回、芸人とアイドルの組み合わせなのですが、普段は無理やり色分けされているような役割があいまいになって、いたって普通の会話になるのですね。
このフラットなトーンも、心地よい隠し味になっているのではないでしょうか。
とはいえ、やはりお楽しみは、その国、土地ならではのメニュー。エジンバラや、ほとんどタコ料理しか出ないというポルト。さらに店内で飼う野鳥を、そのままさばいて素揚げにしてしまうハノイの店などは、やはり日本では滅多にお目にかかれません。
もっとすごいのは、グアダラハラの常連客。持ち込んだ野菜や肉で勝手にツマミを作ってしまう。ニコニコと黙認する店主を横目に、レモン汁をかけて食べるアテの美味そうなこと。
こうした“雑な料理”の数々を見ていて思うのは、見た目や味の良し悪しを置いて、まず滋養に効きそうだということ。映像から受けるインパクトと、内臓が吸収する栄養素にズレがない感じ。だからでしょうか、観た瞬間に作りたくなってしまうのですね。
その中でも最も簡単で、強烈な印象を残したのが、ブリュッセルの「ただのキノコとパン」。私も放送の翌日にさっそく試してしまいました。
⇒【写真】はコチラ http://joshi-spa.jp/?attachment_id=383437
マッシュルーム、パセリ、ニンニクを、大量のバターで炒めて、間にトーストを挟んで出来上がり。技術やセンスの入り込む余地などありません。材料のまま、見たまま、作ったままの味。
美食やぜいたくのもとをたどっていけば、こうしたダイレクトな野性味に行き着くのかもしれない。わずか30分足らずながら、『世界入りにくい居酒屋』は、実に多くのことを示唆してくれる番組です。
●『世界入りにくい居酒屋』(NHK BSプレミアム 毎週木曜23:15~45 放送)
番組公式サイト http://www.nhk.or.jp/nikui/
放送された各居酒屋のレシピ http://www.nhk.or.jp/nikui/archive_r.html
(番組はNHKオンデマンドでも有料配信)
<TEXT/沢渡風太>