数カ月後に小学校入学を控えた娘がインフルエンザとなり、外出禁止を言い渡された1週間があった。しかし、私は仕事を休むわけにはいかない。原稿の締め切りは毎日訪れるのだ。
仕方なく、娘が折り紙をするまえでパソコンを開き、CDのレビューを書こうとすると、プレイヤーから流れるJ-POPに対して、娘が鋭すぎる疑問を投げかけてくるのだ。
「ねぇ、ママ。どうしてみんな、頑張れがんばれって歌うの?」
「ねぇ、この人、好きって言いたいけど言えないって、言えばいいんじゃないの?」
「ねぇ、メギドってなに?」
応援歌にラブソング、ビジュアル系の理解しがたい歌に対しての素直な疑問は、私がこれまであえて目をつぶってきたところである。
しかし、これに関しては、もう雰囲気で受け止めるのが礼儀なのだ。しかし、それを6歳の娘に説明しても理解できないのはわかっている。よく他人から「ストレートだね」と言われる私でさえも、絶対に突っ込まないところを娘はガンガン突っ込んでくるのだ。
もう、純粋にレビューなんて書けない。書けないどころか、その曲の良さがどんどん薄れてきてしまう気がして、私はそっとパソコンを閉じた。
このとき、私はもう、決して子供の前では仕事をしないと決めたのだ。
現在、保育園に入れずに困っているママのニュースが連日放送されているが、当事者以外はいまいちピンと来ていない気がするのが残念でたまらない。保育園に入れず働きたくても働けないママがいるというのは、本当に死活問題。かつての私のように、家で仕事ができず生活苦を前に怯えるようなママたちが少しでも減ることを願うばかりである。
そして今日も、娘はJ-POPの歌詞の疑問を私に投げかけてくる。最近、娘が疑問に思うのは、
「どうしてみんなが“あの丘で約束”するのか」ということらしい。そして、その答えは、私にもわからない。
<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ、フリーライター。西野カナなどのオフィシャルライターを務める他、さまざまな雑誌で執筆。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘は“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(
@singlemother_ky)
- ママ。80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。
- 娘(8歳)。しっかり者でおませな小学2年生。イケメンの判断が非常に厳しい。
- 息子(5歳)。天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをものともせず保育園では人気者
※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。