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子供とのお風呂タイムは「労働」です【シングルマザー、家を買う/54章】

強制的コール&レスポンス

 もちろん、そんなポップチューンが流れ出したらヒールの歩く音にもリズムをとる息子が黙っちゃいない。合いの手を入れては「フォー!」「ワー!」と叫び出し、曲が終わるごとに盛大な拍手で盛り上げる。なんて出来た客なんだろう。  それを、足も伸ばせない小さなお風呂のなかで、3人が入った状態で繰り広げられるのだ。  そのステージ横となるお風呂のすみっこで、この2人のジャマにならないように縮まる私は、疲れなんてひとつもとれやしない。むしろ疲れて仕方がない。  さらにやっかいなのが、星野 星に扮した娘は、途中途中で私にコール&レスポンスを求めてくるのだ。娘の設定によると、「星野 星~!」と言ったら「いえ~い!」と言わないと機嫌を損ねて帰るらしい。お前はいつぞやのエリカ様かよ。  その後もやたらと「次のリクエストは何がいいかしら~?」とマイク(に見立てたシャボン玉の棒)を向けられ、答えに戸惑うと「どんな曲でも歌っちゃうわよ~!」とノリノリで煽り、息子は出来たサクラのように叫び続ける。

団地の湯船で「アリーナ!」

 しかも、1畳くらいしかない無人の洗い場に向かって、「アリーナ!」と叫び、その声は団地中に響いてしまう。窓はしっかり閉めているが、ここは古い団地。絶対にこの歌声は、毎日多くの人たちに強制的に届いてしまっている。近所の人には、どうか、これが平和の象徴だと思って受け止めてもらいたいものだ……。 シングルマザー、家を買う/54章_2 というわけで、私のお風呂タイムに安らぎはない。  いつか、星野 星がマイクを置いてくれるその日まで、私はどっと疲れるお風呂で伝説のライブを体感し続けることになりそうだ。  切実にわが娘が、吉田家のアイドル界から引退してくれることを願う。 <TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 【吉田可奈 プロフィール】 80年生まれ、フリーライター。西野カナなどのオフィシャルライターを務める他、さまざまな雑誌で執筆。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘は“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980
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シングルマザー、家を買う

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