――恋愛音痴のオッサン読者である僕が感情移入のできた理由が見えた気がします。最初は控えめで消極的な咲季子に苛立ちますが、堂本との恋をきっかけにどんどん殻を破っていく。その脱皮していく過程にピカレスクロマンの爽快感があるというか。
物語の終盤で夫を殺し、死体の隠蔽工作を企てるわけですが、不謹慎ながら、完全犯罪を願ってやまない自分がいました。
村山:咲季子は“知った”ことで今までの価値観を180度変えて自分だけの幸せを追求していくわけです。100人が100人とも「アナタは幸せよ」と言ってくる幸せに価値はなくて、かといってそこから逸脱した先は茨の道が待ち受けている。
善悪を知る木の実を食べてしまったが最後、自分が裸でいることが恥ずかしくなるのはアダムとイブの寓話ですが、知恵をつけることによって訪れる不幸というものも確かにあるわけです。
ただ、恋愛なんて永遠に持続するものではなく、一瞬のきらめき、一瞬の真実があればそれで満足という側面もあります。現実世界のモラルで考えれば、彼女が犯したことは罪ではあるけれども、自分の幸せに目覚めた彼女にとっては、その一瞬だけが真実だった。そんな心を切り取る作品になったと実感しています。
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本書のタイトル『La Vie en Rose』はフランスのシャンソン歌手、エディット・ピアフの曲をモチーフにしています。自室で何度もこの曲を再生する咲季子の心中を、作中では以下のように描写しています。
<ひとを愛する喜びを歌いあげながら、ピアフの歌声はどこか諦めにも似た哀しみに満ちていて、愛が決して永遠には続かないことを悟っているかのように聞こえる。それでも恋はそこにあり、人生を恐ろしいほどに輝かせるのだ>
⇒【YouTube】Edith Piaf – La vie en rose (Officiel) [Live Version] http://youtu.be/rzeLynj1GYM
自分の可能性にどこか目を閉ざしている人にこそオススメしたい本書。何だか、自分の人生観がガラリと変わってしまいそうで怖い気もしますが、禁断の果実を拾ってみたい夜には、是非!
<TEXT/スギナミ>