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なぜステキ女子の肩掛けカーディガンは決してずり落ちないのか?――トミヤマユキコの「40歳までにオシャレになりたい!Neo」

 しかし、今回の一件でわたしは大いなる気づきを得た!  圏外ファッションに対してはこんなにアドレナリンが出るのに、圏内ファッションだとまるで出ないというのは、つまり「服への愛が足りない」、あるいは「着る快感が足りない」のだと!  これは完全に盲点だった。雑誌を見たり、自腹で買い物をしたりして、圏内ファッションのことを少しずつわかってきたつもりだったけれど、「わかる」ことに集中しすぎて、「好きになる」ことをすっかり忘れていた(猛省)。  これは、恋愛にたとえるならば、交際相手に対して、不満はとくにないものの「なんか、実はそんなに好きじゃないかも」と思うのと同じではないか。そしてそれって、相手に対してすごく失礼なことではないか。  圏外ファッションの変なギミックを愛でるように、コンサバ服の細部に目をこらし、愛でることなしに、圏内ファッションを制することはできないのだ。 「コンサバ服ってなんだか全体的にシンプルすぎて、どこを愛でればいいのか、よくわかんねえな」と思っているわたしの視界、画素数でいうと100画素くらいではないか。圏外ファッションに対しては軽く100万画素を超えるというのに。この落差を埋めない限り、40歳までにオシャレになることはできない……。  これからのわたしは「圏内ファッションへの愛」というコンセプトを胸に、改めて自身の着こなしについて考えてゆくことにしよう。「大いなる気づき」とか「愛」とか、ちょっとスピってるみたいでアレだが、まあ背に腹は代えられない。  それでさっそく「何だったら愛せるかな~?」と考えてみたのだが、愛せるものよりも、愛せないものが気になって仕方がない。とくに、近ごろ街中を見ていていちばんよくわからない〝あるファッション〟のことを考えると、すごくモヤモヤする。  それは「肩掛け」。ジャケットやカーディガンの袖に腕を通さず、そっと肩から掛ける、あのスタイルだ。東京だけでなく、出張先の名古屋でも、旅行先の香港でも見かけたから、間違いなく流行っている。 カーディガン画像:WEAR  見たところ、肩掛け女子たちは「いまだけちょっと引っかけておきますね」ではなく「今日は朝から晩までかけておきますので」というテイで過ごしているようだ。  ちなみに、この間、満員電車に乗り込んできたゆるふわ系女子が、パステルカラーのカーディガンを肩掛けにしていたのだが、揉みくちゃにされているというのに、カーディガンをまったく落とすことなく颯爽と下車していったのには驚いた。なんなんだあの能力は。決して乱れぬ肩掛けカーディガン、特殊能力ぽくてちょっと怖い。  しかし、あのファッションにもきっと愛でるべき細部があるのだろうと思うので、次回連載では肩掛けについて真面目に考えてみたい。調査と分析と考察、そして愛。これらを武器に、いま再び圏内ファッションの世界を旅しようではないか。 【トミヤマ・ユキコ】 ライター・大学講師。大のパンケーキ好きが高じて著したガイド本『パンケーキ・ノート』(リトルモア刊)が話題に。大学では少女マンガ・サブカルチャーについての講義を担当している。そのほか「週刊朝日」、「文學界」、「ESSE」などで書評・コラムを連載中。ファッションに対して積もり積もったコンプレックスあり。 Twitter @tomicatomica タイトルイラスト/澁谷玲子
トミヤマ・ユキコ
ライター・大学講師。大のパンケーキ好きが高じて著したガイド本『パンケーキ・ノート』(リトルモア刊)が話題に。大学では少女マンガ・サブカルチャーについての講義を担当している。そのほか「週刊朝日」、「文學界」、「ESSE」などで書評・コラムを連載中。ファッションに対して積もり積もったコンプレックスあり。 Twitter @tomicatomica
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