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日本の子どもの6人に1人が貧困状態。パート月収4万円の母子家庭も…

チャイルド・プア 子どもの6人に1人が貧困状態にある。  そう聞いても、多くの人はイメージができないのではないでしょうか。  学校給食だけが唯一の食事だという小学生。一家で夜逃げをせざるをえなくなり、2年間、車上生活で勉強が大幅に遅れてしまった中学生。家庭崩壊から10代でホームレス生活を送った男性……。  そんな自らの意思とはまったく無関係に貧困状態に置かれた子どもたちの現状が、『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』(TOブックス)では描かれます。  本書は、2012年10月19日に放送され、大反響を呼んだNHKの特報首都圏「チャイルド・プア ~急増 苦しむ子どもたち~」を書籍化したもので、著者は同番組を担当したNHK報道番組ディレクター・新井直之氏。 「子どもの貧困は見ようとしないと見えない」「子どもの貧困を隠しているのは他ならぬ、大人なのではないか」――そんな問題意識から取材を続けた新井氏に話を聞きました。私たちが見逃しているものは、何なのでしょうか? ――そもそも、新井さんが子どもの貧困についての取材を始めたきっかけから教えてください。  朝のニュース番組を担当していた2010年に、経済的に厳しい家庭の子どもの学習支援をするNPOが増えているという新聞記事を目にして、複数の団体を取材したのがきっかけでした。  私は当初、こうしたNPOが増えている理由について、不況で失業者や生活保護の受給者も増えているから、塾に行かせるお金がない家庭の親がNPOの無料の学習教室を利用しているのだろう、という程度に考えていました。  しかし、現場に足を運んでみると、経済的な厳しさ以上に、子どもたちが劣悪な家庭環境に置かれているケースが多いことが見えてきました。  例えば、親による虐待やネグレクト(育児放棄)を受けている。あるいは、親が精神疾患を抱えていたり、ギャンブルやお酒に依存していたりして、家庭が崩壊しているケースなどが少なくありませんでした。  このとき私は初めて、貧困が子どもに与える影響の大きさを知ったのです。 「貧しい家庭で育っても、努力して勉強すればそこから抜け出せるはずだ」というのはもはや幻想かもしれない。貧しい家庭に育つ子どもには努力する土台すら与えられていないのではないか。  食事も満足に与えられなかったり、母子家庭で自分が幼い弟や妹の世話をしなければならなかったり、親から日々暴力を受けていたりしていれば、そもそも勉強の意欲なんて湧くわけがありません。  これはいったいどういうことだろうと調べていくうちに、「子どもの貧困」という言葉に出会い、相対的貧困率では、当時、日本の子どもの7人に1人が貧困状態(厚生労働省2010年公表)であるということを初めて知ったのです。 ――相対的貧困率というのは、「社会の標準的な所得の半分以下の所得しかない世帯」のことで、額でいうと、「2人世帯であれば177万円、3人世帯で217万円、4人世帯で250万円を下回る世帯」なんですね。2010年発表のデータでは「7人に1人」でしたが、翌年7月に出された最新データで「6人に1人」(子どもの相対的貧困率15.7%、実数にして約232万人)ということで、貧困に陥る子どもが急速に増えています。  国民生活基礎調査によると、もともと日本の社会の中で一番貧困となる割合が大きいのは高齢者です。しかし、1990年代に入ってから、子どもの貧困率は大きく上昇していて、その上昇率は他のどの年齢層よりも高くなっています。  その理由については、私は研究者でないのではっきりした理由はわかりません。ただ、子どもの貧困の研究者、国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩さんは著書『子どもの貧困』(岩波新書)の中で、「この国の社会保障制度からの給付が高齢者に極端に偏っていることと無関係ではない」と述べています。  言えることがあるとすれば、近年、格差や貧困がますます広がる中で、そのしわ寄せを最も敏感に受けているのは、子どもたちだということでしょうか。 ――『チャイルド・プア』第一章に登場する、パート収入4万円、生活保護と児童手当で2人の子どもを育てる朋美さん(仮名)のお話は、シングルマザーが置かれている現状を端的に示しています。母子世帯での母自身の平均年間就労収入は 181 万円。しかも、約8割の人が仕事をしていての数字です。これを見て、「フルタイムで働けばいい」という人もいると思いますが、話はそんなに単純ではない、ということがよくわかりました。  日本の母子世帯の貧困率が国際的に見ても際立って高く、有効な対策が未だに打たれていない背景のひとつには、シングルマザーの方々への無理解があるのかもしれません。  豊かなはずの現代の日本で、所得が低くて苦労している女性は、「努力が足りない」とか、「仕事を選んでいるからではないか」などと、個人の心の問題として自己責任を問われる風潮があるように感じます。  一億総中流の時代はとうに過ぎ去り、格差が広がる中で、みな自分の生活を守り維持することで精一杯です。あす自分の生活がどうなるか分からない中で、他者への寛容さや想像力が失われているのかもしれません。  あるいは、国を動かす政治家や官僚、企業のトップの多くが、こうした社会の底辺で暮らす人たちの生活を想像すらできないとすると、さらに悩ましい状況です。  ひとり親世帯がこれだけ増える中で、シングルマザーはもはやマイノリティーではありません。男女平等が謳われる中で、まだまだ女性の声は国の政策に反映されづらいとも言えます。子どもの貧困を解決する上で、シングルマザーの声をもっと拾い上げていく必要があると思います。 ――先月には、ベビーシッターの死体遺棄事件がありました。あの事件について、新井さんはどういう印象・感想をお持ちになりましたか?  「なぜ、顔も知らない相手に子どもを預けられるのか、信じられない」という批判もあったようですが、親族や地域とのつながりが疎遠になる中で、子育てをしながら働く女性が突発的に子どもを預けなければならなくなる状況は容易に想像がつきます。  子どもを預けた女性の責任ではなく、受け皿となる制度や仕組みが不足していることこそが問われるべきです。女性の社会進出が進む中で、社会の矛盾が端的に現れた例ではないでしょうか。  「実家の両親に頼ればいいではないか」「近所の人に頼めないのか」といった批判が絶えない状況は、子どもの貧困問題がこれまで顕在化しなかった背景と密接にリンクしていると感じました。 ⇒【後編】「『親に復讐したい』…子どもの貧困はお金だけの問題ではない」に続く
http://joshi-spa.jp/84966
※新井直之氏の『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』を無料で公開中。 ⇒2章までのサンプル原稿はこちら
http://www.tobooks.jp/books/ChildPoor_sample.pdf
【新井直之】 NHK報道番組ディレクター。1982年、埼玉県生まれ。2005年にNHKに入局。仙台放送局を経て、2010年から「おはよう日本」でニュース企画や震災関連の特集を担当。2012年から「特報首都圏」でドキュメンタリーを始めとする報道番組を企画制作。 主な担当番組は、ハイビジョンふるさと発「昔話が消えてゆく~東北の村を訪ねて50年~」(2007年)、「求むおらほの“なかま”~宮城・鬼首山学校の奮闘~」(2010年)、特報首都圏「チャイルド・プア~急増 苦しむ子どもたち~」(2012年)、地方発ドキュメンタリー「逆境を生き抜け~急増“チャイルド・プア”闘う現場」(2013年)、小さな旅「雷さまの慈雨~栃木県下野市~」(2013年)、NHKスペシャル「台風連続襲来“記録的豪雨”はなぜ?」(2013年) <INTERVIEW、TEXT/鈴木靖子>
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