「親に復讐したい」…子どもの貧困はお金だけの問題ではない

 2014年1月、「子どもの貧困対策法」が施行されました。今後、各自治体の対策が期待されますが、言い換えれば、法律になるだけ子どもの貧困問題は深刻であり、待ったナシの状態であるということです。

 ルポ『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』(TOブックス)で、ある中学生は夢を問われて、こう答えています。

「ちゃんと勉強して、普通に高校に行きたい。高校にいけなかったら、バイトして仕事に就いて、普通に彼女を作って、普通に生活していきたい」――

 彼らが「普通」を取り戻すために、何ができるのでしょうか?

⇒<前編>「子どもの6人に1人が貧困状態。パート月収4万円の母子家庭も…」
http://joshi-spa.jp/84963


――番組や書籍には紹介できなかった子供たちのエピソードで印象に残っているものがあれば、教えてください。

 ある母子家庭の女子中学生は、貧困によるストレスをためた母親から虐待を受けて育ち、不登校になりました。その後は自室に引きこもってリストカットを繰り返しています。誰からも愛されず、誰からも必要とされていないという思いから、死ぬことばかりを考える生活を今も続けています。

 私は、ある支援者を通じて彼女と知り合い、取材のお願いをすると、意外にも快諾してくれました。なぜ、取材を受ける気になったのか。後日、聞いてみると、「メディアを通じて両親に復讐できるから」と真顔で言ったのです。

 貧困が、将来への希望だけでなく、生きていく気力を奪い、両親や社会への憎悪を膨らませているという現実を目の当たりにし、非常にショックでした。

 子どもの貧困が、「経済的な貧困」だけを指すのであれば、生活保護を始めとして、必要なお金を給付すれば解決するはずです。

 でも実際には、「愛情の貧困」や「心の貧困」、「社会的なつながりの貧困」といったことも含めての「子どもの貧困」だと思います。

 解決策は、お金だけではありません。複数の要因をそれぞれの専門家がひとつひとつほどいていくか、もしくは、この社会の雇用環境や社会保障制度を根本から見直さない限り、本当の意味で貧困に苦しむ子どもを救うことはできないのではないでしょうか。

――今の日本の社会には「自己責任」という考え方がありますよね。子どもに対しては、さらに「親」という責任の押しつけ先を社会が持ってしまっている。だからこそ、子どもの貧困を見えにくくさせているようにも思います。

 番組や本を通して、私が最も伝えたいのは、もはや子どもの貧困は他人事ではないということです。

 生活保護の受給者が増えれば、税金を支払うのは私たちです。貧困の影響で就職ができない若者に対して、心のケアを行い、職業訓練を受けさせ、就職して自立できるまで面倒を見るということにも多大なコストがかかります。

 かといってその状況を放置すれば、日本経済を支える優秀な人材や貴重な労働力が育たずに、日本の経済は傾き、財政はますます逼迫して、日本社会が急速に衰退していくことになるでしょう。

 子どもの貧困は、教育や福祉、労働の分野など様々な視点から見ることが重要ですが、それらを横断しながら、さらに大きな視点で見つめるべき重要な社会問題なのだと思います。

 今は貧困状態にない私たちも、いつどういったタイミングで貧困に陥るかわかりません。貧困への手当は、私たちへの「保険」にもなりうるはずです。

――「他人事ではない子どもの貧困」を浮き彫りにすることで、逆に「貧困な子供=かわいそうな子供たち」というレッテル貼りに加担するというリスクも、お感じになられたのではないでしょうか。

 私が子どもの貧困を取材する上で最も恐れているのは、そうしたレッテル貼りに加担してしまうことです。取材の最中もそうですし、本が発売された今もそれを一番恐れています。そのような批判があり得ることは重々承知しています。

 実際に、テレビでは、番組全体のテイストから、登場する子どもたちは、「かわいそうな子どもたち」という印象になることが避けられません。プライバシーを守るためにつける顔の「ボカシ」が逆にそうした印象を強める結果につながっているのかもしれません。

 でも私が会った貧困家庭で育つ子どもたちは、よく笑うし、アニメやゲームの話題を楽しそうに話す普通の子どもたちです。当たり前ですが、いつも泣いて暗い顔をしているわけではありません。だからこそ子どもの貧困は「見えにくい」とも言えるのです。

 私はマスメディアを通じて何かを伝える上で、知らず知らずに誰かを傷つけることがあることに、常に自覚的でありたいと思っています。取材者はその加害性からは決して逃れられません。これを伝えることで、あの人やこの人はどう思うだろう。そう考え始めると恐くて眠れないことはよくあります。

 しかし、誰かがリスクを取り、実態を少しずつでも広めていかなければ、何も始まりません。貧困の家庭で育つ子どもたちが「かわいそうな子どもたち」というレッテルを貼られてしまうことも心配ですが、むしろそれよりも私が恐れているのは、子どもの貧困が社会問題化しないまま見過ごされていくことです。違和感があると批判を受けかねない、「チャイルド・プア」という造語をタイトルにあえて使っているのも同じ理由です。

――子どもが貧困状態になる背景は、たったひとつではなく、「ひとり親世帯」「親の離婚」「親が何らかの依存症」「親からの虐待、ネグレクト」「不登校」「いじめ」など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。しかも、経済的な貧困が心の貧困をうみ、それは次世代へ継承してしまう「貧困の連鎖」となっていきます。これはどう断ち切っていけばいいのでしょうか。

 子どもの異変は不登校などがきっかけで発覚することが多いです。そのときにどのような支援が必要かというと、スクールカウンセリングのような本人の心のケアだけではなく、子どもの家庭環境に目を向けることが大切です。

 親がアルコール依存症で子どもをネグレクトしているのであれば、親を保健師のもとに連れて行き、児童相談所と協議する。親が失業したことで住まいや食事に困っているのであれば、福祉事務所を通じて生活保護につなげる。親がうつ病などを患い、家庭環境が悪化しているのであれば医療機関で適切な処置をしてもらう。

 こうした、貧困を背景に現れた症状のひとつひとつを、どこの社会資源につなげて解決すればいいか、ワンストップで相談に乗ってくれる役割が求められています。ただし、学校だけでは限界があります。スクールソーシャルワーカーがその役割を期待されていますが、普及はまだまだですね。

――そのほか、具体的な取り組みはあるのでしょうか。

 東京都北区でいい事例があります。地域で生まれ育ち、自営業を営む男性が、地域のコーディネーター役を担っているのです。「地域支援員」という立場で学校に出入りし、日ごろから校長や養護教諭とコミュニケーションを取りながら、不登校の子どもたちを把握して家庭訪問をします。保護者と面会をし、必要に応じて適切な機関につなげるのです。いわば、学校と家庭と社会資源をつなげるパイプ役です。

 この方は、長年地域で暮らしているため、地元の保健師やケースワーカー、児童相談所の職員などとのネットワークを持っていて、子どもに問題が生じたらすぐにどこの誰に相談すればいいかが分かっていることです。子どものケース会議では、この方がハブとなって、各分野の専門家たちが顔を付き合わせて対策を練ります。

 さらに、子どもたちにとってもメリットがあります。学校の先生や児童相談所の職員だと、緊張関係が生じる子どもたちも、「地域のおじさん」になら心を開きやすいのです。実際、この男性の携帯には、問題を抱えた子どもたちからの電話やメールがひっきりなしにきます。

 行政機関の縦割りの弊害が言われて久しいですが、地域で長年暮らす人材をうまく巻き込んで、それぞれの分野の専門家が定期的に顔を合わせる機会をつくる。こうして子どもたちを複数の目で見守る環境を整えていくことが、ひとつのヒントになるような気がします。

 繰り返しますが、この問題は、私たち日本人全体の問題です。子どもたちは、いまこの瞬間も助けを求めています。学齢期の子どもたちにとって、一日一日が取り返しのつかない貴重な一日で、まさに「まったなし」の状況なのです。

※新井直之氏の『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』を無料で公開中。
⇒2章までのサンプル原稿はこちら
http://www.tobooks.jp/books/ChildPoor_sample.pdf


【新井直之】
NHK報道番組ディレクター。1982年、埼玉県生まれ。2005年にNHKに入局。仙台放送局を経て、2010年から「おはよう日本」でニュース企画や震災関連の特集を担当。2012年から「特報首都圏」でドキュメンタリーを始めとする報道番組を企画制作。
主な担当番組は、ハイビジョンふるさと発「昔話が消えてゆく~東北の村を訪ねて50年~」(2007年)、「求むおらほの“なかま”~宮城・鬼首山学校の奮闘~」(2010年)、特報首都圏「チャイルド・プア~急増 苦しむ子どもたち~」(2012年)、地方発ドキュメンタリー「逆境を生き抜け~急増“チャイルド・プア”闘う現場」(2013年)、小さな旅「雷さまの慈雨~栃木県下野市~」(2013年)、NHKスペシャル「台風連続襲来“記録的豪雨”はなぜ?」(2013年)

<INTERVIEW、TEXT/鈴木靖子 PHOTO/ :: Suwaif ::

チャイルド・プア~社会を蝕む子どもの貧困

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