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宇垣美里「ああ、これが愛だ」/映画『精神0』

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが劇場公開中・オンライン映画館で配信中の映画『精神0』についての思いを綴ります。
精神0

『精神0』より

●作品あらすじ:ドキュメンタリー監督の想田和弘が「こころの病」とともに生きる人々を捉え、海外からも高い評価を得た2008年の映画『精神』。  そこから10年、主人公の一人であった山本昌知医師が、82歳にして突然「引退」することになりました。  彼を慕い、生命線のようにして生きてきた患者たちは戸惑いを隠せません。  引退した山本医師を待っていたのは妻・芳子さんと二人の新しい生活…。  想田監督が「期せずして“純愛映画”になった」と語る作品を宇垣美里さんはどう見たのでしょうか?

平等に降り注ぐ老い、そして終焉を前に「ゼロに身を置く」ことを思う

精神0

『精神0』より

 静かな作品だった。テロップもBGMもナレーションもない観察映画。  ただ淡々と記録された山本医師と妻・芳子さんの日常。  素朴で柔らかな響きの岡山弁の会話や、雑然と物の散乱した食卓の様子は、岡山で医師として働いていた祖父と晩年認知症を患っていた祖母の暮らしそのままで、あまりの既視感に涙が出た。  手を伸ばしそのおぼつかない足取りを支えてあげられないことがもどかしかった。
精神0

『精神0』より

 精神科医として患者を支え、その訴えに傾聴し「あなたはどうしたいんだい」と問う山本医師の姿はまるで菩薩のよう。芳子さんの友人の話から、彼もまた妻に支えられていたことがわかる。  ゆっくりした動作に絶え絶えの息遣い、手をぎゅっと握りしめ坂道を下る2人の姿が脳裏に焼きついて離れない。ああ、これが愛だ。美しく幸福でありながら“老い”が色濃く漂うその姿に、いつか必ずやってくる自分や大切な人の未来を重ねた。  生きていれば、どんなに大切な人がいても、どんなに愛していても、いずれ終わりに近づいてゆくのだと胸が苦しくなった。
精神0

『精神0』より

 山本医師の「できないことを嘆くのではなく、生きていることを感謝するようには考えられないか?」という言葉を思い返す。  ゼロに身を置く。それはすがる患者を前に職を辞し、妻を介護する厳しい現実を前に、先生が自分に言い聞かすように、ただそこに迫る別れを見据えて生きることではなかったか。  平等に降り注ぐ終焉を前に人ができることは、ただ手を携え支え合って歩み続けることだけだ。未曽有(みぞう)の感染症が世界中を覆い、以前よりずっと死が身近になってしまった今だからこそ、すべての人に見てほしい。 精神0』’20年/日本・アメリカ/2時間8分 監督/想田和弘 配給/東風 ©2020 Laboratory X, Inc <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、モデル・女優業や執筆業などに幅広く挑戦している。
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