「産後うつ」なぜ発症してしまうのか。なりやすい人、向き合い方を医師に聞く
出産直後の時期、今まで経験してこなかったような急な気分の落ち込みに襲われてしまうといった症状。産後間もない女性によく見られるうつ病の一種とされているのが「産後うつ」です。
産後1年未満に死亡した女性の死因でもっとも多いのが「自殺」(2015~16年、国立成育医療研究センター調査)という統計があり、自殺の背景として産後うつが疑われるケースも考えられそうです。
産後うつとは何なのか。“女性医師によるメンタル専門クリニック”として、産後うつ外来を設ける青山すみれクリニックの坂本里江子院長に話を聞きました。
「出産後に急に怒りっぽくなったり、泣いてしまったり、イライラしてしまったりといった極度な感情の変動と気分の落ち込みが継続的に起きる病態が『産後うつ』とされています」
一般的にはこのように定義されているそうですが、ここでいう“産後”には諸説あるようです。
「DSM-IV(精神障害の診断と統計マニュアル)では産後4週以内、ICD-10(国際疾病分類)だと6週以内に発症するとされています。研究によっては1年以内くらいまで幅をとらえる場合もあり、最近では、妊娠中に発症する場合があるとも言われています。これらを考慮すると、周産期(妊娠22週から出生後7日未満までの期間)から産後1年くらいにかけてのうつ病という考え方ができるのではないでしょうか」
では産後うつ発症のメカニズムにはどのようなものがあるのでしょうか。
「もともと、うつになりやすい素因があるとされている生物学的要因や、出産後の女性ホルモンの変動で引き起こされる場合が考えられます。過去にうつ病にかかったことがあった場合や、妊娠中に気分の不安定さがあった場合も発症しやすいと言われていますが、妊娠中に幸福感を感じていた人が発症するケースもあります。誰でもなりうると考えるべきかもしれません」
また、もともとPMS(月経前症候群)になりがちな人も注意が必要とのことです。
「生理前に具合が悪くなる傾向にある方も産後うつになりやすいといえます。生理前はホルモンのバランスが変わる時期で、それ自体はごく正常な反応ですが、変化に敏感に反応してしまう体質の人がいらっしゃいます。産後というのは生理前の何十倍も女性ホルモンの変動が激しいとも言われています。もともとPMSの傾向がみられた人こそ気をつけるべきなのです」
出産後、特に初産であれば、育児に不慣れであるのは当然のこと。お母さんは赤ちゃんの夜泣きで寝不足になりながらも、家事をこなしていくなど大変な日々を過ごさなくてはなりません。
そんななかで、どのように自分自身の産後うつを疑えばいいのか。また、当事者はどのように症状を訴えるのでしょうか。
「気分が落ち込み悲しくなったり、イライラして怒りっぽくなったりと、今までの自分では考えられないくらい気分の変動に襲われる。それが数週間から数か月継続する場合は疑ったほうがいいと思います。当事者は理由がない気分の変動に悩まされているという人もいれば、自分から『産後うつだから来ました』という人も増えていて、実にさまざまです。最近はネットで検索して調べたり、YES・NOで答えるチェックシートで該当したりしたので来たという人も多いですよね」
産後うつ発症のメカニズム
PMSになりやすい人は注意が必要

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