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宇垣美里「息苦しいほどの女同士の恋」/映画『燃ゆる女の肖像』

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが公開中の映画『燃ゆる女の肖像』についての思いを綴ります。
映画『燃ゆる女の肖像』

映画『燃ゆる女の肖像』

●作品あらすじ:18世紀フランス、望まない結婚を控える貴族の娘と、彼女の肖像を描く女性画家との激しい恋の物語。  画家のマリアンヌは貴婦人から、娘の見合いのための肖像画を頼まれます。(当時の貴族は、画家に肖像画を描かせて、お見合い写真のように両家で交換していました)  けれども、娘・エロイーズ自身は結婚を嫌がっていました。画家であることを隠して彼女に近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌ。
『燃ゆる女の肖像』より

『燃ゆる女の肖像』より

 ですが、真実を知ってしまったエロイーズから絵の出来ばえを批判されます。  描き直すと決めたところ、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、語り合ううちに、恋におちる二人でしたが…。  カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したこのラブストーリーを、宇垣美里さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣さんの寄稿)

貴族の娘と女性画家の恋が、現代の我々と地続きの息苦しさを映し出す

映画『燃ゆる女の肖像』

『燃ゆる女の肖像』より

 目を閉じれば浮かぶ、まっすぐにこちらを見る瞳。静謐(せいひつ)な空間とは対照に煌々と燃え上がる炎を宿すあの眼差し。観察するためだった視線は、いつしか愛を湛(たた)えた優しいものへと変化していく。  人が人を見つめるということは、人が人を愛するということは、こんなにも剥(む)き出しの行為だったのか。  岩を叩く海の飛沫やパチパチとはぜる焚き火、キャンバスを走る筆の摩擦音をBGMに、静かに描かれる女たちの邂逅。暖炉が照らす裸体や寒々しい海と空の青、ろうそくの光が映す肌の質感はまるで絵画のように繊細で美しく、余分なものなどひとつもない。
『燃ゆる女の肖像』より

『燃ゆる女の肖像』より

 18世紀ヨーロッパの、決して女性が生きやすくはなかった時代を、瞳に怒りの火を灯しながらも懸命に生きて、出会って、終わりがあると知りながら恋に落ちる女を描く。  まさに女の女による女のための映画だ。  何世紀も昔を舞台にしたはずなのに、どことなく今の我々と地続きの息苦しさに苛(さいな)まれているように思えるのは、気のせいなんかじゃないだろう。
『燃ゆる女の肖像』より

『燃ゆる女の肖像』より

 ラストシーンは何もかもが完璧だった。思い出の曲も、28ページも、ただまっすぐに前を見つめ続ける彼女の横顔も。  振り向いてすべてを網膜に焼きつけ、その思い出だけを胸に生きていくのもひとつの愛なら、過去にすることを拒み思い出になんかしてやらないとその時を生き続けるのもまたひとつの選択だ。  エロイーズの視線の先にはいったい何が見えたのだろう。母が居ぬ間に女同士でワインを飲みながらゲームをした、短い楽園の記憶か、愛する人と共にした床の温もりか。こちらまで息苦しくなるような、頑(かたく)なで壮絶なあの表情が忘れられない。 燃ゆる女の肖像』 ’19年/フランス/2時間2分 監督・脚本/セリーヌ・シアマ 配給/ギャガ ©Lilies Films. <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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