リアル『ボクたちの交換日記』。売れなさすぎる芸人に密着【後編】

 映画『ボクたちの交換日記』を観てきた。鈴木おさむ原作の、売れない芸人の物語。映画館で思わず一人、号泣した。あまりにも自分と境遇が似ていたから。そうなんだよ、つらいんだよ、売れないってつらいんだよ。劇中に出てきた「諦めるのも才能」という台詞。その通りだと思う。

 売れない芸人さんを取材しようと思った。聞いてみたいことがある。「どうしてお笑いを続けているんですか?」

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「辞めたい」と思わないのか



 汗ばむ陽気の中、1時間半歩いて、正午すぎにビールを飲みにいった。全員、フリーランスの身。話は自然と貧乏自慢になる。「そんなに安いの!?」「それでもいい方ですよ」「みんな大変なんだなぁ」……辞める人、多いですよね? そう聞くと、GYONさんは言った。「オレは辞めないなぁ。お客さんが笑ってくれると、気持ちいいもん。セックスよりずっと気持ちいい」

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貧乏話が延々と……

 作家の山口さんは言う。「お笑いって、麻薬なんですよ」。一度でも快感を覚えてしまうと、たとえ500円を稼ぐのにどれだけ苦労しようが、辞められない。一生、500円のままかも知れない。「60歳になっても今のままだったら、辞めると思う。でも貧乏でもいいから、最低限、食べていけるだけの生活ができるなら辞めない」。売れたい。缶詰もカップラーメンも、本当は好きじゃない。GYONさんが言うと、その割には美味しい美味しいと食べてるよなと、2人からツッコまれていた。

 ワイワイ楽しそうですよね。するとこんな話をしてくれた。真面目な公務員の友人が泥酔した時、これは面白いと、全裸にブラジャーとパンツを着せ、そのまま電車に乗せた。しばらくして、群馬で身柄を確保されたと連絡があった。捕まったのかと思いきや、「年末だから仕方がない」と警察は千円札と洋服を貸してくれて、彼は電車で成増に帰ってきた。なんてことをするんだと問い詰められたので、「可哀そうだからパンツに500円入れておいたんだぞ」と言うと、「そうか、ありがとう」とお礼を言われたという。

 友人にブラジャーとパンツを着せて群馬で補導されたのをゲラゲラ笑う二人だから、観客も、なんだか思わず笑ってしまう。そういう雰囲気がある。

「情景が浮かぶ」ネタ



 先日の舞台でやったネタは、「お笑い養成所でよく見る風景」。入学初日に席が隣になった二人の会話を、リアルな演技で見せる。GYONさんはコテコテの関西弁を話すエセ関西人。遠藤さんは田舎から上京してきた引っ込み思案な青年。お笑い養成所のネタ見せなんて、ほとんどの観客は見たことがない。しかし「こういう人いるいる!」と、どっと笑いが起きる。「情景が浮かぶこと」それが二人が大切にしていることだ。

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書き連ねたネタ帳

 最近、売れないことをネタにする芸人が増えている。見ている側としては、笑っていいのかどうか反応に困る。33フリッパは、そういうネタはやらない。自分たちが売れているか売れていないかなんて、観客からするとどうだっていい。友達じゃないのだから、同情して笑う義理はない。そんなシビアな現実を、逆に楽しんでいる。

 面白い2人だなと思った。この日8時間話して、「つらい」という言葉を一度も口にしなかった。「好きなことを仕事にできて、少しだけどお金をもらえる。こんなに幸せなことはない」

 つらくないはずがない。私はフリーでライターをしていて、つらくて仕方がない。辞めたいといつも思っている。でも33フリッパのような人たちに出会うと、記事にしたくてウズウズする。

 つらい。辞めたい。そんな心境なんかふっ飛ぶワクワクする瞬間が、いま、明日、明後日と続いていって、私もまた、全然辞められやしないのだ。 <TEXT,PHOTO/尾崎ムギ子>




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