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「理想的な母親なんて知らねえよ!」峰なゆかが“妊婦の違和感”をマンガにした理由

 ベストセラーとなった『アラサーちゃん』の峰なゆかさんの最新作として発売以降話題を呼んでいる、常識をくつがえす育児漫画『わが子ちゃん
わが子1書影帯アリ

『わが子ちゃん1』峰なゆか

 約1年間の妊活を経て、2020年4月に一般男性の「チャラヒゲ」さんとの間に第一子を出産した峰さん。連載当初から峰さんは「『母性☆』とか『イクメン☆』とか『パパは新入社員☆』とかいった妄言をぶち殺すつもりで描いていきますのでよろしくお願いします」と宣言していましたが、その言葉どおり、結婚や育児にまつわる常識、欺瞞(ぎまん)、男女不平等に斬り込む名言の数々には、大きな反響が。育児中の人はもちろん、今後出産を考えている人にとっても教科書的存在となる、新たな結婚・出産・育児・家族のかたちを提案する意欲作です。今までにない育児漫画が生まれた経緯を峰さんにうかがいました。

結婚にも子どもにも興味がなかった

峰なゆか

峰なゆかさん

――そもそも峰さんが妊活を始めたのは、どんなタイミングだったんですか? 峰:私は今まで鬱気味なときもあったし、「自殺願望のある自分は、子どもを作ってはいけない」と考えていたんです。  でもあるとき「これまでツラい経験もたくさんしてきたし、死ぬことばかり考えているのって、時間のムダだな」ってバチッと目覚めて、同時に「よし、子ども作ってこれからの人生は、エンジョイするぞ!」ってスイッチが入ったんですよ。ちょうどそのころ、彼氏だったチャラヒゲからプロポーズをされたんです。もともと私は結婚には関心がなかったんですけど、結婚しないとチャラヒゲが育児休暇を取れないと知って。子どもを産んだら、育児はすべてチャラヒゲにまかせるつもりだったので、「結婚したい」という彼と「子どもがほしい」という私の利害が一致して、妊活をスタート。妊娠後は安定期になるのを待って、妊娠20週目に婚姻届を出しました。 ――『わが子ちゃん』は妊娠検査薬が陽性になるところからストーリーが始まりますが、漫画の構想はいつごろから練っていたんですか? 峰:妊活中から「これは、絶対に漫画にするぞ!」と思っていました。特に私はつわりと臨月が辛すぎて。「このつらい妊婦生活は、漫画に描いてお金にしないとやってられない!」。そんな気持ちで日々、メモを取っていましたね。 ――一番つらかったのは? 峰:つわりですね。私は、食べていないと気持ち悪くなってしまう「食べづわり」がひどかったタイプで、妊娠7週目は2時間に1回ご飯を食べていました。はたから見ると、ご飯をモリモリ食べて元気な人に見えますが、「食う・寝る・吐く」の日々はあまりにもしんどくて、「妊婦の私に人権はないし、私は胎児を収納する袋だ」とまで追い込まれていました。臨月の時期もつらかったですが、これは2巻以降で詳しく描きたいと思っているところです。  そもそも自分が妊娠するまで、食べつわりがあることも、妊娠糖尿病(妊娠中に血糖値のコントロールがうまくできなくなってしまい、糖代謝異常を起こす病気。母子ともにさまざまな合併症を引き起こす可能性がある)のことも知らなかった。「聞いてねーよ!」ということの連続でしたね。  出産時の痛みや育児の大変さは語られることが多いけど、つわりや臨月のツラさってあまり語られていないような気もします。 ――なぜあまり語られていないんだと思いますか? 峰:ひとつは個人差が大きいからなのかなと思います。実際、先日出産した私の友人は、つわりはほとんどなかったし、臨月になっても全然元気で、入院前日まで友だちと遊びまくってたんですよ。私がつらい思いをした話を聞くと「なゆちゃんが虚弱すぎるんじゃない?」と言われてしまいました……。  もうひとつは、出産時の「このツラい陣痛を乗り越えた先には、赤ちゃんに会える!」という感動的なエピソードに比べると、つわりや臨月のツラい話って「映えない」のかも。だからこそ私は、「このつわりのツラさを映えるように描くぞ!」と思っていましたね。  安定期に入るまでは、周囲にも公言しづらいので、なおさらつわりのツラさは可視化されていないのかもしれません。しかも唯一の相談相手の夫は、リアルなツラさを理解してくれないし、まだ父親になる実感も湧いていない。そういった孤独も輪をかけてしんどいですよね。

胎児に愛情を持ってはいけないと思っていた

――峰さんはこれまで出産や育児マンガを読まれたことはありましたか? 峰:はい。自分が妊娠する前から、出産や育児マンガが好きでよく読んでいたんですけど、妊娠・出産にまつわる不安や恐怖って、かなりマイルドに描かれているんだなと気づきました。  これは『わが子ちゃん』にも描いてるんですが、妊娠初期は流産するのが怖すぎて、万一のときに悲しくならないためにも、「胎児に愛情を持たないようにしよう」と思ってたんです。でもこういう話って「理想の母親像」とはかけ離れているし、あまり描かれてこなかった気もします。 ――『わが子ちゃん』では、流産の不安や出生前診断などデリケートな題材にも踏み込んで描かれていますよね。 峰:そうですね。そういった部分は、担当編集者さんと相談を重ねて、かなり慎重に描きました。ともすると不謹慎になってしまうし、読んでつらい思いをしてしまう人もいるかもしれないと、正直ドキドキしていました。でも想像以上に共感してくれた人が多くて、「そうか、みんな怖かったんだー!」と思いました。不安な気持ちはなくならないとしても、共有できるだけでも気持ちがラクになりますよね。
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