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NHK『大奥』、脚本と福士蒼汰らにあっぱれ。魂の叫びに胸がつぶれた

 連続ドラマ『大奥』(NHK総合)第3話が放送。名前を奪われることは、時に人格を奪われることに等しい。その苦しみと同時に、自分を、ほかの誰でもない自分として認めてくれた相手が現れたときの救いの大きさを、強く伝える回だった。  男女逆転大奥へと入った公家出身の元僧・有功(福士蒼汰)が、家光(堀田真由)から猫を与えられ“若紫”と名付けるも、あるとき、“若紫”の姿が見えなくなり、事件が起きる。

オリジナル要素を加えた脚本が見事

オリジナル要素を加えた脚本が見事

(C)NHK

 本作の原作は『西洋骨董洋菓子店』『きのう何食べた?』などを発表してきた漫画家・よしながふみが、2004年から2021年まで連載した全19巻のSF時代劇コミック。手塚治虫文化賞マンガ大賞や、ジェンダーへの理解に貢献したSF・ファンタジー作品に送られる国際文学賞のアザーワイズ賞(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞)に選ばれるなど、傑作として名高くファンも多い。  そうした原作モノの実写化となると、気になってくるのがキャスティングと、原作のエピソードをどう取捨選択するか。キャスティングに関しては、「没日録」を視聴者とともに読んでいく役割を担っている徳川吉宗役の冨永愛や、<家光×有功編>の福士、堀田、春日局役の斉藤由貴など、肉体が伴うと、こうなるのかと納得。それぞれの声の響きも役柄にとても似合っている。 一方、森下佳子(『JIN―JIN―』『義母と娘のブルース』『天国と地獄~サイコな2人~』)の脚本は、物語の芯を捉えたうえで、取捨選択というより、かなりのオリジナルを加える手法で打ち込み、それが成功している。

家光の魂の叫びに胸がつぶれた第3話

家光の魂の叫びに胸がつぶれた第3話

(C)NHK

 第3話では、「名前」が印象に残った。原作では“若紫”の由来と名づけの意味について取り立てて語られることはなく、上様も「わしより良い名をもらった」と『源氏物語』からの名だとすぐに理解したようだったが、そうした教育を受けていないのか、ドラマでの上様は『源氏物語』を知らず、おそらくは自らも気づかぬうちに、“若紫”と名を付けた有功についても知りたくて『源氏物語』を読む。だがやがて“若紫”は、大奥に渦巻く闇の犠牲となる。  有功が、「若紫の弔いを」と家光のもとに参じてからの1対1の激しいぶつかり合いは、見ごたえ十分で、同時に胸がつぶれるようだった。家光の「名を取り上げられ、女のなりも取り上げられ、にも関わらず女の腹だけは貸せと言う」は、まさに魂の叫びであり、相手が有功だからこそ、叫べたことでもあった。しかしそのときの有功は「わたしかて好きでこんなとこ来たんやない」と跳ね返してしまう。  そしてようやく、正勝(眞島秀和)から、有功に、そして私たちに、家光の真の姿が語られた。父からの愛など受けぬ存在として生まれ、赤面疱瘡で亡くなった家光公の血筋を繋ぐために、いっときの身代わりとして探し出され、目の前で母を切られ、春日におなごとしての髪を切られた。そして「今日からあなたが上様です」と自分自身を奪われたのである(ご内証の方の起源も登場した)。その後の彼女の日々は、地獄でしかなかったはずだ。
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ドラマの完全オリジナルの和歌に涙
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