結婚後に性別違和を妻に伝えたトランスジェンダーの苦悩。義母に「気持ち悪い」と言われ、家庭では夫・父、職場では女性装
現在、主にネット空間でトランスジェンダー女性(出生時には男性と割り当てられたが、女性としての性同一性をもつ)への誹謗中傷が多く見られますが、そこには必ずといっていいほど「見た目」への言及があります。
一方で、トランスジェンダー男性へのバッシングはほとんど見かけません。私は以前からこの違いが気になっていました。
関東地方で塾講師として勤める松林さん(仮名、44歳)は、現在結婚18年目。妻とのあいだに子どもが3人います。女性の格好、つまり女性装をはじめて以降も、夫婦間は常に見た目のことで揉めているといいます。
婚姻後にパートナーに性別違和をカミングアウトした人にお話をうかがう本シリーズ。出生時には女性と割り当てられ、女性として生活してきたけれども、自分を男性としか思えず、好きになる対象は男性のみ。現在も、男性と結婚生活をつづける佐倉イオリが、松林さんにインタビューします。
松林さんが自身の性別違和を妻にカミングアウトしたのは、8年前のこと。妻との話し合いで、子どもらにはそのことを隠し、家や近所では女性装しないことを求められました。一方、職場では本来のアイデンティティに近い格好で過ごせているため、性別の二重生活を強いられていることになります。
――学習塾講師のお仕事には、女性装で従事されているのですね。
松林:家から職場まで男性装で出勤して、トイレで女性装に着替えます。メイクをしてスカートを履くという、女性装で教壇に立つんです。そして帰るときはまた、男性装に……という生活です。
女性でも男性でもないX(エックス)ジェンダーを自認していますが、私も自分のアイデンティティを明確に説明できないんですね。女性にシンパシーはあるものの、男性として生活しないといけない部分もありますし、純粋な女性集団には入れない感じがあるんです。
自分が感じているだけかもしれませんが、「女性として認めてもらえない」みたいな拒絶感みたいなものがあります。実は去年1年間、女性ホルモンによるホルモン治療をしてみたのですが、保険適応外という経済的な事情と、それから「これ以上女性に近づける感覚がない」と感じてやめてしまいました。
――なるほど。私は、男性ホルモンによる治療で、ほぼ男性と認識されるようになりました。いまのところ、手放す気にはなれません。見た目の性表現は、人それぞれですね。職場にはどのように説明されたのでしょうか。
松林:性同一性障害の診断は出ているので、その診断とあわせて女性装をさせてほしいと伝えています。それでも、塾では女装している男性講師と見なされていると思います。「男性の先生~」と呼ばれるので。
――「男性の先生」と言われるんですね。“女装”のつもりではないんですよね?
松林:はい、私にとっては女装ではありません。だからモヤモヤはしますが……それでも塾では、先生も生徒も自然に接してくれるのでありがたいです。卒業生からLGBTQ+に関する相談を持ちかけられたことがありました。日ごろモヤッとすることはあっても、いまの格好を貫いていることは決して無駄じゃないと思えます。
朝、男性装で家を出る

女性装での授業、よかったこと
