そんな渡辺さんですが、ある日そのベテラン事務社員の“弱み”を握ってしまうことになってしまったと言います。その舞台が、社内の女子トイレだったそう。
「うちは営業中心の会社なので、女子社員の数は少ないですし、歯ブラシなどのオーラルグッズや、生理の際のナプキンなどは女子トイレの収納スペースに各自置いています。
収納の内側には特に仕切りなどないので、各自ポーチやボックスを持ってきて、なんとなく区分けされているだけなのですが、ある日、何気なくトイレに立った夕方4時。手洗い場の下の収納に手を伸ばしながら、いろんな種類のナプキンを片手に抱えるお局事務さんを……見てしまったんです」
渡辺さんがトイレのドアを開けると、お局社員はあわてて立ち上がり、片手に持ったナプキンを隠しながら、トイレの個室に入っていきました。
「以前から、女子社員の中では“誰かがナプキンを盗んでいる気がする”という噂もあり、私自身も、数こそ数えていないものの、ナプキンの減りが早すぎるとは思っていました」
美香さんが収納スペースを開けると、あわてて立ち上がったせいか、案の定、中がちょっと荒れているような感じがあったそう。
「営業の私でも手取り20万円を切るブラック企業ですが、ナプキンなんて、1袋300円もあれば買えるのにと思うと……ちょっとあきれるというか、引いてしまった気持ちはありましたね」
いろんな人のナプキンを少しずつくすねて、ナプキン代を浮かせているのでしょうか。不景気で家計が厳しいなど事情はあるのかもしれませんが、盗んでいることには変わりありません。
「結局私はその後、それをお局社員に確認するようなことはしませんでしたし、言いふらしたところで、どうせ私が出どころだとバレて損する気もしたので、その日の出来事は胸にしまうことにしました。
ただ、その後そのお局社員さんは、私の請求書は光のスピードで作成してくれるようになりました。請求書を受け取りに行く時の、笑顔の裏にある無言の圧力……もともと気を使ってはいましたが、他部署でよかったと、心の底から思いました」
握りたくもなかった弱みを握ってしまった渡辺さんなのでした。
―シリーズ「
ブラックな職場がしんどい」―
<文/ミクニシオリ イラスト/とあるアラ子>
ミクニシオリ
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携わったのち、2017年からライター・編集者として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。Twitter:
@oohrin