「夫への依存と引け目がなくなった」3人息子の母・53歳女優が明かす“夫からの自立”
俳優の黒沢あすかさんが、長塚京三さん主演の映画『敵』に出演しました。筒井康隆氏の小説を吉田大八監督が映画化した作品で、引退した元大学教授が穏やかな老境の日々を送るも、突如やって来る「敵」に翻弄される姿を描いた異色作。黒沢さんは、主人公の亡き妻役を演じています。
黒沢さんは3人の息子たちの子育てや、つらく長い更年期を終えた50代の今、自分自身を俳優としてのリスタートの時期と捉え、『敵』に対して「全身全霊で臨めた」と述懐。結婚20周年を迎え、支えてくれた夫からも精神的に自立できたそうで、とても「充実している」と言います。お話を聞きました。
――2024年の東京国際映画祭でも注目を集めた本作ですが、長塚京三さん演じる主人公の引退後の丁寧な暮らしが、得体の知れない敵のせいで崩れていく展開の映像表現が凄まじかったですね。
黒沢あすか(以下、黒沢):タイトルの「敵」とは、本人が引き寄せてることなのか、それとも誰かに仕組まれたものなのか。目に見えない運命と言っていいのかどうかわかりませんが、主人公は何かに仕組まれ引き寄せられてしまっているのかもしれないと、映画を観ながらそういう気持ちにさせられましたね。2度観たのですが1回目と2回目で印象がまるで違いました。
――この作品に関わっての感想はいかがですか?
黒沢:まず『敵』の“住人”になれたこと、それと吉田大八監督とご一緒できたことが嬉しかったです。吉田監督とはどうしてもご一緒したかったんです。夫(梅沢壮一)が特殊メイクアップアーティストとして『桐島、部活やめるってよ』(2012)で先にご一緒していて。あの作品を観たときに夫に「よかったね」と拍手すると同時に、吉田監督の作品に「先越されちゃった!」っていう思いがこみ上げてきたんです(笑)。
――ライバル心みたいなものでしょうか。
黒沢:いえ、そのときは子育て真っ只中だったので、あの時に吉田監督からお話をいただいても万全な状態で出演できていたかどうかは、正直今振り返って考えると難しかったと思います。でも夫とはいえ羨ましかったですね(笑)。
それ以来、時間は掛かることは覚悟できていましたが、いつか吉田監督にお声がかかるような“住人”になりたいと。そのためには、今(当時)は妻・母の顔を持ちながら俳優という仕事を両立しているけれども、ある程度子育てが落ち着いて俳優一本という形で臨めるタイミングで、勝負したい取り組みたいという思いは常々思っていました。いつ吉田監督に呼ばれても応えることができるよう準備だけは心掛けていました。
――そして今回演じられた『敵』の渡辺信子は、長塚京三さん演じる主人公・渡辺儀助の亡き妻役でした。
黒沢:儀助との関係性でわたしの登場の仕方は、亡き妻・信子という形でしたので、他のお二人の瀧内公美さんや河合優実さんとは、存在の仕方が違いました。ところどころに儀助が妻・信子を偲ぶようにコートやいろいろなものを自分の身の回りに置いて、言葉には出さないけれどもなんとなく常に感じて日常を過ごしている。儀助のカウントダウンが始まっているような世界観の中に信子も一緒にいる、そういう役でした。
――共演者の方と作品や役柄についてお話する機会はありましたか?
黒沢:瀧内さん、河合さんのさまざまな言葉がわたしにはとても新鮮で、私の経験値にはない考え方を導いてくださいました。わたし自身は50代となり、自分では再スタートと思っているのですが、おふたりからは新しいこと学ばせていただいている現場でした。
長塚さんは、現場での佇まいに役者としての気付きを与えてくださいました。それはやはり長塚さんそのものがわたしにとって希望であり、光であったからだと思うんです。あの御年齢で主演をお引き受けになるということは、かなりの覚悟とエネルギーがなければ無理なわけで、しかも結果的に最優秀男優賞を獲られたということが、わたしには励みにつながりましたね。
「夫とはいえ羨ましかった」念願の吉田大八作品
長塚京三が「私にとって希望であり光」
