『ホットスポット』で気付かされた、バカリズム脚本の“本当の凄み”。会話劇や伏線回収、だけじゃない
バカリズム脚本のドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系、日曜よる10時30分~)が話題です。
主人公は富士山麓にある町のビジネスホテルに勤める、41歳のシングルマザー・遠藤清美(市川実日子)。ひょんなことから“宇宙人”に遭遇した彼女の日常を描く、地元系エイリアン・ヒューマン・コメディです。
脚本家としてのバカリズム氏はこれまで、ドラマ『架空OL日記』で第36回向田邦子賞、『ブラッシュアップライフ』で第32回橋田賞、東京ドラマアウォード2023脚本賞などを受賞。バカリズム氏が生み出す独特な物語の特徴を分析しながら、ドラマ『ホットスポット』の魅力に迫りたいと思います。
※この記事には、『ホットスポット』第5話までと、第6話予告のネタバレを含みます。
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まず着目したいのは、コント師としての顔ももつバカリズム氏らしさが光る「設定」について。
本作では、主人公・清美の同僚・高橋さん(角田晃広)が“宇宙人”という特殊な設定になっています。しかも、どこにでもいそうな中年男性が宇宙人だという斜め上の設定は、実にバカリズム氏らしい。そしてこれこそが本ドラマの面白みなのですが、宇宙人の設定がやたらと細かいのです。
例えば、高橋さんがもつ宇宙人の能力は、あくまで人間が元々持っている能力を引き上げるだけ。そして、能力を使うと副作用が起こるのですが、彼が勤務するホテルの温泉に浸かると回復します。こんな設定、バカリズム氏以外に誰が思いつくでしょうか?!
本作は独特な設定に加えて、物語が主に「会話劇」で展開していくところも特徴的。ほぼずっーと誰かと誰かが会話をしています。しかも、ただただ駄弁(だべ)っているという脱力系の会話。なかでも、清美と幼馴染のはっち(鈴木杏)とみなぷー(平岩紙)、そして高橋さんの4人によって繰り広げられる会話劇は圧巻です。ただ駄弁っているだけなのに、全く飽きません。しかも長尺。
例えば第3話では、途中で清美の同級生・あやにゃん(木南晴夏)も参加しますが、約14分間にわたって同じカフェ、同じテーブルで会話を繰り広げました。ごはんを食べながら他愛もない会話をするのみで、回想シーンで場面が変わるようなことも一切なし。それを、視聴者に飽きさせることなく展開するのは、どう考えても難易度が高いことのはずです。
台詞の中身はもちろんですが、テンポや間合い、トーンなど、自然に見せる高い演技力が求められることも間違いありません。だからこそ、バカリズム氏の作品に出演する俳優陣は実力派ばかり。ハイレベルな演技合戦を楽しめることも、大きな魅力といえるでしょう。

画像:日本テレビ『ホットスポット』公式サイトより
思ってた宇宙人と全然違う……細かすぎる「宇宙人の設定」
しかも使う能力によって副作用は変わり「頭脳系の能力を使うとハゲる」と高橋さんが告白したときは、吹き出しそうになりました。特殊な上に設定があまりに緻密で、視聴者それぞれが抱いていたであろう“宇宙人像”をことごとく裏切ってくる。ここに面白みが光ります。そして、「この設定だと、他の登場人物の中にも宇宙人がいるのでは?!」と、どんどん作品に惹きこまれていくのです。