大河ドラマで34歳元ジュノンボーイ俳優がみせる“ポテンシャル”「ジュノンボーイの最終兵器」と言えるワケ
球数は、多いほうがいい。しかもその球が一発ずつ確実に打たれ、どの球にも常にポテンシャルを感じる俳優がいる。
中村蒼である。彼の場合、球(演技)をストレートに打ち、直球であればあるほど、それが名演に近づく。
男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、ポテンシャルそのものであり続ける中村蒼を解説する。
中村蒼は、ジュノンボーイの最終兵器だと常々思っている。2005年に第18回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞した。今年は受賞からちょうど20年ということになる。
十年一昔とはよくいうけれど、さらに倍の20年も経てば、誰がいつ何を受賞したかを細かく記憶しておくことは難しい。だから中村蒼の経歴を改めて確認すると、20年前の栄冠が懐かしい記憶ではなく、むしろ風通しがいい再発見のような現在として感じられる。
佇まいも存在自体もすべてが、ほんとうに清々しい俳優である。例えば、『沈黙の艦隊 シーズン1 東京湾大海戦』(Amazon Prime Video、2024年)で、反旗を翻した潜水艦の副長を演じた中村は、半袖制服の端正な白色を慎ましくもさわやかなペーパーミントブルーにうっすら染め上げていた。単にさわやかなだけではない。「蒼」の名前が意味する深い色合いをオーバーラップさせながら、年齢に調和していたことが美しかった。
彼の佇まいが醸す色合いは、年齢に応じた演じ方(あるいは、見せ方)の豊かな変化でもある。20年前、グランプリを受賞したときの彼は、まだ14歳だった。2006年、寺山修司の舞台『田園に死す』(演出は栗田芳宏)で俳優デビューしたときが15歳。
寺山が監督した『草迷宮』(1983年)で俳優デビューしたのが三上博史だが、三上が寺山本人に才能を見出されたのも15歳だった。三上がこれまた固有の佇まいを誇示するドラマ『東京サラダボウル』(NHK総合、毎週火曜日よる10時放送)に中村もまた重要な役で出演している。同作における中村蒼の魅力は後述するとして、とにかく時が巡りにめぐって、不思議な類似が一本線で結ばれている。
その間、中村は常にポテンシャルそのものであり続けている人だと思う。彼をジュノンボーイの最終兵器と命名した理由もそこにある。最終兵器ということはつまり、中村から打たれる球はいくらでもあることを意味している。
最終の一球になるまで球がいくらでもあるから、絶えずポテンシャルであり続けられる。そんな言葉遊びも軽やかに成立させながら、中村蒼はひたすら役という球を打ち、演じる。その特性が軽妙に演じられているのが、今年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合、以下、『べらぼう』)だ。
風通しがいい再発見のような現在
常にポテンシャルそのものであり続けている人
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