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『おんな酒場放浪記』寺澤ひろみに見る、さわやかな酒の呑み方

 若者のアルコール離れが叫ばれる今日この頃ですが、そんな現状に逆行するように、テレビでは酒場めぐりの番組が数多く放映されています。『夕焼け酒場』(BS-TBS毎週土曜18時~18時半)、『せんべろ女とホルモンおやじ』(フジテレビワンツーネクスト不定期)、『酒とつまみと男と女』(BSジャパン毎週火曜21時~21時54分)などなど。

 そんな数ある飲兵衛フレンドリーな番組の老舗的存在といえば、何といっても『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS毎週月曜21時から22時)。街歩きと居酒屋探訪がナチュラルにつながる構成は安定感抜群。お色気もためになる話も全く出てこないのに、なぜか観てしまう。何が楽しいのかと訊かれると困ってしまうのですが、むしろそれがリラックスして鑑賞できる所以なのかもしれません。

おんな酒場放浪記

2013年に発売された『おんな酒場放浪記』DVD。寺澤ひろみはまだ登場していない

 そんな『酒場放浪記』のスピンオフとして、2012年から放送開始されたのが『おんな酒場放浪記』(BS-TBS毎週土曜23時から24時)。コンセプトは本家のまま、酒場を訪れるのは若い女性。ファッションモデルの倉本康子、写真家の古賀絵里子、料理研究家の栗原友、女流棋士の万波奈穂といった各界を代表する酒好き女子が、かつて吉田類がめぐった名店を再訪していきます。

もつ煮込みだからって変に力まない



 そしてこの秋から新たな出演者として名を連ねているのが、ハーモニカ奏者の寺澤ひろみ。この人が、番組に何とも緩やかな新風を吹き込んでいるのです。

 常連のおっさんと親しげに絡むでもなし。ビールを飲んで「か~、うまいっ」と言うでもなし。好きな肴について熱く語るでもなし。初めてそこに来た人として、よそよそしくならないぎりぎりのラインで店や他の客との距離を保ちます。

 では、つまらなそうに見えるのかと言われれば決してそうではありません。出された酒や料理に対して、「では、いただきます」とか「はぁ、これなんだろう?」と、よい意味で機械的な反応を示すのです。酒場だからといって、力んだり無理に自らをキャラづけしようなどとは考えていない。そこがさわやかなのです。

寺澤ひろみ公式サイト

寺澤ひろみ公式サイトより

 寺澤ひろみは、日本酒ともつ煮込みを注文するのと同じ声のトーンで、カフェラテといちごのタルトを注文するはずです。よくよく考えたら同じ食べ物や飲み物なのだから、当たり前のこと。しかし、酒が絡むとなぜか猥談やおっさんのトーンが顔をのぞかせてしまう。“おんな”とわざわざ念を押すことの背景には、そこへのエクスキューズも少なからずあるような気もしてくる。

 多くの番組はお酒が絡むと顔をのぞかせる、そうした灰汁の部分にクローズアップしてアルコールの楽しみを打ち出しているようですが、もしかしたらそれこそが若者が毛嫌いするものなのかもしれません。そう考えると、寺澤ひろみが見せる素朴な反応の方がお酒を飲む楽しみをダイレクトに感じられるのではないでしょうか。

 出されたお酒や料理に対して大げさなリアクションを取らずによどみなくいただく。そしてそのあとに見えるちょっとした表情の色合いから、その味がうかがえる。テレビ的なグルメレポートとしては不十分なのでしょうか。そして客や店主との絡みが極端に少ないのも、バラエティとしてNGと言われてしまうのでしょうか。

 しかし寺澤ひろみには、今後ともその自然な佇まいを保っていただきたいと切に願います。その「ししおどし」のように規則正しい飲みっぷりは、何よりも雄弁にお酒の美味しさを映し出しているのですから。

<TEXT/沢渡風太>

おんな酒場放浪記 其の壱

BS-TBSで放映中の人気番組『吉田類の酒場放浪記』のスピンオフシリーズ第1巻。ファッションモデルの倉本康子、写真家の古賀絵里子、料理家の栗原友の3人が、過去に吉田が訪れた酒場をそれぞれ紹介する。




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