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ナンシー関のテレビ批評が必要だ!“涙と感動”大安売りの今こそ痛感する

 いまナンシー関と聞いて、一体どれほどの人がその名前を知っているでしょうか。消しゴム版画で芸能人の似顔絵を描き、正確無比な文章でテレビ批評というジャンルを開拓した一人の女性が亡くなって今年で12年。

 2014年11月には渋谷パルコで版画展が開かれ、12月14日にはNHKBSプレミアムで『ナンシー関のいた17年』というドラマも放送されました(NHKオンデマンドで2014年12月29日まで有料配信中)。

ナンシー関大全 芸能人やテレビ番組について語るという今では当たり前のように行われていることも、ナンシー関抜きではあり得かったことでした。彼女の連載が読みたい、そのためだけに『週刊文春』や『週刊朝日』を買う。かつてそういう時代が確かにあったのです。

 そこで、ここからは現在でも話題になっている人物をナンシーはどう書いてきたのか。色あせることのないその切れ味に浸りたいと思います。

櫻井よしこが野茂に投げつけた「お上品爆弾」



 まず櫻井よしこ。当時キャスターを務めていたニュース番組「きょうの出来事」(1995年10月19日放送)でゲストにMLB移籍1年目を終えた野茂英雄を迎えた際のコラムは傑作です。

 今でこそ保守の論客として知られる彼女ですが、その強さの本質は暴走する上品さにある。ナンシーはそのことをいち早く指摘していたのです。

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 おそらく、野茂帰国後のテレビ出演の中で、最も野茂の懐に入り込んだのはよしこかもしれない。それも野球に関する理論や観念をまったく抜きにして、である。では何を武器に斬り込んだのか。それはよしこの「お上品爆弾」である。(中略)

 これは、今までも使用されてきた。たとえば中村征夫(筆者注・水中カメラマン)が東京湾に潜って撮ってきた映像を紹介するコーナーでのトーク、ニュースの合間の時候のあいさつ、どこかの珍しいお祭りを紹介するなごみネタ。ここでよしこは「あらぁー、うふふぅ」「まぁコワイのねぇ」などとささやき、私たちをなぜかドギマギさせる。


(『ナンシー関大全』P48-49)
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 脳内再生余裕、というやつです。そしてこの爆弾が野茂に向けられたとき、最も破壊力を発揮した。それをナンシーは詳細に記しています。

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 最後に野茂を迎えて炸裂した「よしこ爆弾」をいくつか紹介したい。「恥ずかしがり屋の小さな坊やが、こーんなに大っきくなってねぇ」「まちがってあっち投げたりとか、なあい?」「どうやって投げるの?」「どうやってつかむの?」「うわって投げたでしょ」「ちょっとよく見せてぇ」「つめは割れているの?」「ただの人じゃできないのよねぇ」。 

(同上)
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 音声と映像がヴィヴィッドに蘇ります。極めつけはこのコラムのタイトルにも採用された、よしこのおねだりです。

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「あそこの二番目のカメラに向かって、ビューンと投げてくださる? 本物のフォームよ」
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 幸運にも筆者はリアルタイムでこの場面を観ていました。困ったなという笑みを浮かべながらスーツ姿のままトルネード投法を披露する野茂から片時も目を離さない櫻井よしこのフラットな冷たさは、今も忘れることができません。

感動して泣く島田紳助は怪しい



お宝発掘 BSプレミアムのドラマでは、ナンシーの予言者としての一面にも触れられていました。「谷亮子(当時)は政治家になるだろう」とか「有吉はふてぶてしい」とか。

 しかし、それらをさらに上回るスケールで時代の先を読んでいたのが「タガを外して感涙に咽ぶ島田紳助の怪しさ」(週刊SPA!1990年5月16日号掲載)というコラムです。その書き出しからして、完全に現代でも通用してしまう。

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 最近の島田紳助の怪しさを気にしている人も多いことと思う。紳助は怪しい。とりあえず、紳助はやたらと泣いている。(中略)「素敵なことやないか」「一緒にやりましょうや」といったような感動的なフレーズを連発する。怪しい。

(『お宝発掘!』P30)
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 改めて確認しますが、これはいまから24年前に書かれた文章です。恐ろしいまでの精度を誇っています。そして、文章はここから「泣く」という行為自体への考察へと向かっていく。

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 感動して泣く、というのは人間にとって本能的に快いことである。しかし、快楽へ向かう本能を解放してしまう羞恥心というのもあるのだ。どうも紳助はこのタガを外してしまったように思える。この「感動して泣く」というやつは、自分の気持ちの中のタガ以外に規制する術がない。社会規範や道徳や礼儀といったもののなかに、それを「悪」とみなす規準はない。論理的には「感動して泣く」ことは、誰からも文句を言われる筋合のものではないのである。

 それだけに紳助を止めることは誰にもできない。それどころか、共感するやつ続出の心配さえある。困ったことだ。このままだと、小金治になっちゃうぞ。


(『お宝発掘!』P31-32)
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 このように、ある種、倫理的な思索、分析を経て、批評の対象へと戻っていくのはナンシーコラムの王道といったところ。しかし、もしかしたらお気づきの人もいるかと思います。ここで最も恐ろしいのは話の主題が「羞恥心」であることです。何もここまで予言しなくても。。。

(※羞恥心:2008年、島田紳助がプロデュースした「おばかタレント」ユニット=つるの剛士・野久保直樹・上地雄輔。デビューシングル「羞恥心」が大ヒットした。2011年解散)

 と、もっと紹介したいところですが、ここまで。少しでも興味を持たれた方は、数あるコラム集のどれか一冊でもいいから手に取っていただきたいと思います。字を読むのとシンクロして頭が働く。そんな経験はめったにできることではないのですから。

※ナンシー関公式サイト「ボン研究所」
http://www.bonken.co.jp/index2.html

<TEXT/沢渡風太>

ナンシー関大全

彼女が去って1年。日々の暮らしに「ナンシーが足りない」と痛感するひとへ、その仕事と人となりをたどる究極の愛蔵版。単行本未収録コラム&対談、カラーページアルバム&ギャラリー、『クレア』対談セレクションなどを収録




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