Entertainment

氣志團は賢い。新曲「幸せにしかしねーから」に光るスマートな音楽性

「人は見た目が9割」と「人は見かけによらない」。果たしてどちらが正しいのでしょうか。難しい問題ですが、このバンドへの印象は間違いなく後者だと言えるでしょう。
シングル『幸せにしかしねーから』(影別苦須 虎津苦須)

シングル『幸せにしかしねーから』(影別苦須 虎津苦須)

 2月25日にリリースされた氣志團のニューシングル「幸せにしかしねーから」。ヤンキーを全面に押し出したビデオや詞のストーリーは、どちらかといえば釣り。スマートなソングライティングと安定した力強いバンドサウンドこそが彼らの魅力なのだと分かる素晴らしい曲に仕上がっています。

「しねーから」のフレーズはお見事

 まずボーカルの綾小路翔による詞が見事。 <マジで幸せにしかしねーから 頷くだけでいい  後は黙って俺に ついてくればいい>  なんてことはない、むしろ陳腐とすら言いたくなるような常套句です。引用した部分だけでなく、全体の9割はとうの昔に使い古されている“クサい”フレーズ。  しかしあえてそうすることで作り手の個性を消しているのですね。独自の言い回しにこだわって曲を息苦しくするよりも、聴き手が楽に入り込める平凡さの方がいいのです。 ⇒【YouTube】氣志團/幸せにしかしねーから http://youtu.be/jLJWY6vAky4  だからといって、全くサボっているというわけでもありません。ちょっとした操作をすることで風景を一変させている。  それが“しかしねーから”というフレージング。  普通なら「幸せになろう」とか「ずっと一緒だよ」というように詞と歌い手がひとつになって共感を得ようとします。しかし、ここで綾小路はひとひねり加えて両者の間に線を引くのですね。「幸せにしかしねーから」と語りを訛らせることで、架空のキャラクターが立ち上がる。  すると歌う綾小路翔は、役の吹き替えをするような立ち位置になります。良い意味でいい加減なポジションを得られるわけですね。聴き手としても、不必要な情念のない軽やかさが心地よい。  副詞と語尾をいじっただけですが、綾小路翔の言葉に対する繊細な感性が光っています。

繰り返しのフレーズを飽きさせない

 負けじと曲もクレバーです。10回以上繰り返される「幸せにしかしねーから」のフレーズを飽きさせないバリエーションが揃っている。特に歌いだしが効いています。最初に言うときの勇気を振り絞る様子が、マイナーコードに落ちていく低いメロディラインによって臨場感を増して伝わってくる。  そのあと何度も「幸せにしかしねーから」と繰り返すうちに演奏も歌も明るく雄々しくなり、同じ言葉でもトーンが変わっていくのですね。ベタと言えばベタですが、きちんと起伏を感じさせてくれる曲は貴重です。

自らを茶化せるしたたかな明るさ

 さらに毎度のことながら、バンドが素晴らしい。ヒステリックな荒々しさに頼らず、音に迫力を持たすことは簡単ではありません。同時にリズムの歯切れもよい。一拍一拍がぼんやりと流れず、タイトに収まっている。  語弊があるかもしれませんが、日本のロックバンドらしからぬ体力を感じます。  しかし氣志團が何よりも素晴らしいのは、心の強さ。音楽を追求する生真面目さに甘えず、それを自ら茶化せるしたたかな明るさが他のバンドと一線を画しているところなのではないでしょうか。 「幸せにしかしねーから」というフレーズは、そんな引きの視点からのギフトであるように思うからです。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評。カラオケの十八番は『誰より好きなのに』(古内東子)
Cxense Recommend widget




あなたにおすすめ