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吉井和哉のスケールアップした余裕を感じる新作『STARLIGHT』

 吉井和哉には聴き手に対する細やかなマナーを感じます。自分の音域を把握して十分に響くスペースの中で曲に迫力を持たせられる。喉ではなく腹の歌なのです。太く丸みを帯びた声が、聴き手をリラックスさせてくれます。
吉井和哉「(Everybody is)Like a Starlight 」公式動画より

吉井和哉「(Everybody is)Like a Starlight 」公式動画より

 だけどサウンドは紛れもなくロック。耳の理性を落ち着かせつつ、心をたかぶらせる。刺激的でありながら、情緒が暴れて音楽を壊す恐れがない。絶妙なバランスはザ・イエロー・モンキー時代から変わらぬ美徳だと言えるでしょう。
STARLIGHT

『STARLIGHT』

 3月18日にリリースされた新作『STARLIGHT』では、その安心感がさらに深みを増しています。全10曲40分余りですが、聴きごたえは十分。繰り返しのリスニングに耐えられる基礎を感じる一枚です。  それを支えるのが幅の大きなメロディ。そこに語のもつ強弱とアクセントが自然な形で反映されている。音を聴きながら歌詞カードを目で追っても、違和感がほとんどありません。  のみならず本作では詩そのものの切れ味も鋭い。抽象的なイメージや独り言がほとんどの「You Can Believe」という曲では、たった一度ロケーションを限定して意味を作り上げてしまいます。 <真っ青な8月の空と太陽の下で ラフォーレ前は天然色になる>  急にカメラがパンするような効果を生むフレーズですが、理由が説明されることはありません。この場景を抜き取る価値観の中にメッセージがあるのかもしれない。しかしどう読むかは聴き手にゆだねられているのです。  またこれがイエローモンキー時代のヒット曲「LOVE LOVE SHOW」を思わせる曲調であることも味わい深い。ソングライターとしての着実な歩みがよく分かる仕上がりになっているからです。

引用の仕方が小手先でなくおおらか

 そして作詞家としてスケールアップした余裕が、曲にもよい影響を与えているように思います。引用の仕方が小手先でなくおおらかなのです。たとえば先行シングルの「クリア」ではボ・ディドリーと種明かしをしながら、コーラスの絡み方にはブラーの「Tender」っぽいフィーリングもある。 ⇒【YouTube】吉井和哉 クリア【Short ver.】 http://youtu.be/EM_MDeqCy8w ⇒【YouTube】Blur – Tender http://youtu.be/SaHrqKKFnSA 「(Everybody is) Like a Starlight」には奥田民生の「花になる」のメロディが紛れ込んでいて、「Stronger」は大胆にもジョン・レノンの「Mother」のような符割とサウンド。 ⇒【YouTube】吉井和哉(Everybody is)Like a Starlight http://youtu.be/tsOl6uYvALc  それらを差し置いていちばん興味深いのが「Step Up Rock」でしょう。ラモーンズをベースに「Hustle」(ヴァン・マッコイ)を<do the 白骨!>と替え歌するのに加えて、サビのつなぎで聴かれるフェイクに「hate tell a lie」(華原朋美)を思い出してしまうのですから、めくるめく一曲です。吉井和哉の記憶を聴き手も体験できてしまうようなぜいたくさを味わえます。  しかし大事なことは、そんなお遊びが後から付け加えたようにならず、きちんと一曲の中に収まっていること。作り手が楽しみすぎると、聴き手が委縮してしまいます。ここにも吉井和哉のマナーが光っているのではないでしょうか。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評。ipodに入ってる曲は長調ばかりの偏食家
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