芥川賞作家も参戦、第1回「書き出し小説大賞」決まる【後編】

書き出し小説を提唱する天久さん

 去る2013年6月30日、栄えある「第1回・書き出し小説大賞(ナオタガワ賞)」が決定すると聞き、授賞式を取材に伺いました(ニフティが運営する東京カルチャーカルチャー@お台場 http://tcc.nifty.com/)。

「書き出し小説」を発案したのは、『バカドリル』『バカはサイレンで泣く』などでおなじみ、投稿マエストロの天久聖一さん。2012年11月にウェブサイト・デイリーポータルZ で「書き出し小説大賞」の連載を始めて以来、投稿総数は1万7000作にものぼるとか。現在もデイリーポータルZで連載を継続中、投稿受付中です(http://portal.nifty.com/kiji/130711161129_1.htm)。

 連載では毎回、フリースタイルの「自由部門」とお題が与えられる「規定部門」の入選作を天久さんが選ぶのですが、そのなかから選りすぐられた60作が今回の大賞候補です。

⇒【前編】はこちら http://joshi-spa.jp/23658

村上春樹らしき投稿も



 後半戦は芥川賞作家で投稿者の一人でもある長嶋有さんも審査に加わり、各審査員の個人賞、そして大賞が選ばれます。静かに熱気を帯びる場内。まずは各個人賞の発表です。

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しまおさん

しまお賞の賞品は私物の「ニワトリ形のバッグ(使いにくい)」

しまお賞 <モチーフ/無職

楽なのは肉体だけ、肉体だけなのだ。 
(作・すり身)

<講評>
「えらそうに言い訳しながら重い腰をやっと上げて書いた感じがいい」(しまお)、「“無職”で“すり身”ですからね」(天久)、「無職には純文学性がある」(長嶋)

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大北賞 <モチーフ/お母さん

義ん母さん

書き出し作家の義ん母さん

母は新しい母とハイタッチを交わして、去って行った。 
(作・義ん母)

<講評>
「こんな2人の母がいる小説をすごく読んでみたい気にさせられました」(大北)、「短い文章のなかにすごいドラマが起きてますね」(天久)

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林賞 <自由部門>

オラウータンと握手しようとして、右手をぐしゃぐしゃに潰された
ことを除けば、概ねいい人生だったといえるんじゃないかな。
 
(作・井上だいすけ)

<講評>
「この投稿者はたぶん村上春樹ですね」(天久)、「『除けば~』以降を付ければ、どんな悲惨なことがあってもいい人生で終わるという発明じゃないでしょうか」(林)

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長嶋賞 <自由部門>

「ねんど」だ! 高校以来だから10年ぶりか。ものすごくいい女になってる。
ああ、本名が思い出せない。

(作・さいしんどう)

<講評>
「心をぐっと掴まれました。いくらでも変なアダ名にできるのに、絶妙な“ねんど”を選ぶセンスが素晴らしい」(長嶋)

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天久賞 <自由部門>

ゆで卵をテーブルに立てて見せた男の金色のまつげがチラつき、
その夜イザベラはなかなか寝付けなかった。新大陸なんか
ぜったいあるはずないんだから…。

(作・ぱぱす)

<講評>
男はもちろんコロンブス、イザベラはパトロンだった実在の女王です。
「ラブコメであり歴史ものであり、ツンデレっていう現代的要素もある。ここまで密度が高い作品はなかなかありませんよ」(天久)

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大賞は究極の恋愛小説



 さて。いよいよ、作家賞、観客が投票で選ぶ書き出しラヴァーズ賞、そして最優秀賞「ナオタガワ賞」が発表されます。まず作家賞は、1人で5本ものノミネートされたこの方でした。

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作家賞  TOKUNAGA氏 

校長のかけちがえたボタンを教頭がそっと直すと、朝の職員会議が始まる。
ほか4本ノミネート

TOKUNAGAさん

TOKUNAGAさん。賞品はベレー帽(「書き出し小説大賞」との刺繍入り)

<講評>
「彼は連載開始からずっと第一線で活躍してくれてた功労者。この作品については……BLの匂いがしますね」(天久)、「僕はBLじゃなくてバカ校長の話かと。教頭が『だめじゃないの』って面倒みるの」(大北)「『坊っちゃん』の世界観かも」(しまお)

<受賞者コメント>
「今日は福岡から来ました。僕にはもったいないくらいです。妄想ばかりしていて、初めてよかったと思いました」

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 そして、観客が選ぶ書き出しラヴァーズ賞と、最優秀賞(ナオタガワ賞)は、まさかの同時受賞となったのでした。

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ナオタガワ賞&書き出しラヴァーズ賞
<モチーフ/失恋

メールではじまった恋は最高裁で幕を閉じた。 
(作・Yves Saint Lau にゃん)

Yves Saint Lau にゃんさん

ベレー帽を授与されるYves Saint Lau にゃんさん

<講評>
「始まりから終わりまで1行で完結していて素晴らしい。もはや“書き出し”を超えてひとつの小説として完成しています」(天久)、「しかも『恋は、』という読点もない」(長嶋)。地裁→高裁→最高裁と、20年がかりの愛憎劇がたった1行で表現されたのです。

<受賞者コメント>
「夜、女子高生のことを考えていて思いつきました。最近の女子高生はメールで告白するとネットで知って、その甘い考えを正してやりたいという気持ちから投稿しました」

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 最後に、書き出し小説の生みの親、天久さんが今大賞を振り返ります。

天久さん

天久さん、書き出し小説の可能性を語る

「極限まで短い文章のなかに作家性があることに感心させられました。書く側はもちろん読み手側も妄想を膨らますことができる書き出し小説で、いけるところまでいきたいと思います」(天久)
 
 たった数行で物語をつくる「書き出し小説」。気軽に応募できるかも……なんて思いきやこれがなかなか難しい。あらためて投稿者陣の凄さを思い知らされます。いろんな可能性を秘めたこの新しい文学、次の扉を開くのはあなたかもしれませんよ! <TEXT/志賀むつみ 女子SPA!編集部 PHOTO/難波雄史>




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