決死のブラジャー救出作戦!【シングルマザー、家を買う/27章・後編】

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決死のブラジャー救出作戦!



 そこでひらめいたのが、ベランダから長い棒を使って下に落とす作戦だ。UFOキャッチャーのようにブラジャーの紐をひっかけてそのままズラすことさえできれば、下に落ちてくれる。

 芝生にさえ落ちれば、私の勝ちだ。そのまま他の階に落ちてしまったのなら、その時は正直に取りに伺おう。そう考えた私は急いで、物干し竿と虫取り網を手に、ベランダから下をのぞいた。

 すると、私のブラジャーは反対にひっくり返り、あられもない姿でそよそよとベランダのふちを泳いでいる。これは気づかれてはいけない、というか気づかれたら恥ずかしすぎてどうしていいかわからない。

 早くこのブラジャーを救出しなくてはいけないと焦った私は、虫とり網の棒を最大限まで伸ばし、ベランダから身を乗り出して、下に静かにおろしてみた。しかし、虫取り網は無情にもブラジャーまであと20cmほど足りない。

 とはいえ、これ以上ベランダから身を乗り出したら私が落下してしまう。ダメだ、こんなことで死んだらどんな見出しになるかわかったもんじゃない。

「自称フリーライターのシングルマザー、ブラジャーと虫とり網を片手に落下死」

 面白すぎだ、面白すぎる。

 イヤ、でもそんな死に方をしたら息子と娘のこれからの人生がかわいそうすぎる。

 よし、この“虫とり網作戦”はいったん諦めよう。一度部屋に戻り、何かいいものはないかと部屋中を見渡すと、棚を作ろうと購入していた突っ張り棒が目に入った。私は手元にある虫とり網の先端にこの突っ張り棒をガムテープでぐるぐる巻きにつけ、あの20cmの空白を埋めようと考えたのだ。

 早く作って、早くブラジャーを救出しなければ……。あのブラジャーが階下の住人に発見される前に! 猶予は一分もない。私は急いで第二戦に挑むことにした。

装備を増強して再挑戦



 当時、まだ肌寒い季節にもかかわらず、緊張と焦りで汗だくになっていた。そんな私に気付いた娘に、「どうしたの?」と聞かれるも、事情を話している暇はない。しかし、スマートな娘はその異様な剣幕に気づいたらしく、ベランダに向かった私に、「頑張って!」と声をかけてくれたのだ。できた娘である。

 なるべく音を立てないようにすうっと棒を下におろすと、ブラジャーの紐はゆらりゆらりと左右に揺れ、なかなか引っかかってくれない。棒をぎゅっと握りながら、必死に数cmの微妙な距離を調整していると、腕はプルプルと震え出し、ベランダの柵に棒が当たりそうになってしまう。

 ここで「カーン」という音を立て、棒が見つかろうものならあらぬ誤解を招いてしまう。それだけは避けたい。私はただベランダの柵に引っかかった私のブラジャーを救出したいだけなのだ!

 もう腕が限界になり、汗が手に伝わろうとした瞬間、虫とり網の棒がブラジャーの紐をとらえた。その瞬間、ぐっと外側に棒を引っ張ると、ひらひらとブラジャーは階下の芝生まで落ちた。

 ……勝った、勝ったよ。私!

 でももう、こんな思いは二度としたくない。ブラジャーを芝生から救出した私は息子にこんこんと説教をし、手の届く場所に洗濯物を放置しないことに決めたのだった。

 あれから数年。息子の特技はキャッチボールである。キャッチするのは苦手だが、その球は剛速球だ。もし野球選手にでもなったのなら、あんたが最初に投げたのは使用済みオムツとママのブラジャーだよと教えてあげよう。

 ほんと、男の子の子育ては予想がつかない。

<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>

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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky

※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。

シングルマザー、家を買う

年収200万円、バツイチ、子供に発達障がい……でも、マイホームは買える!

シングルマザーが「かわいそう」って、誰が決めた? 逆境にいるすべての人に読んでもらいたい、笑って泣けて、元気になる自伝的エッセイ。




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