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ざぶとんに裏表・前後があるって知ってた?【お掃除スタッフという仕事】

【働く女が見た「お仕事の裏側」お掃除サービス編(3)】

 たくさんの仕事を転々としてきた森尾山(もり おやま)が、実体験をレポートします! お掃除サービスを頼んだことがある人もいるでしょうが、働く側から見たウラ事情は……?

お寺掃除で、座布団200枚を並べ直し



 変わり種のクライアントで、お寺さんがいた。一番厄介なバスルームがなかったのが唯一の救いであったが、お寺は普通のご家庭とはかけ離れているわけで、イレギュラーな仕事も多々あった。

 まず、一間が広い。だだっ広い。来客数が半端ないので、

「座布団200枚並べてね」

 なんて依頼はザラである。でも並べるだけなら簡単よね、と高を括ったのが間違いの始まり。お寺さんで使用する通り一遍の地味な座布団、大抵は紫系統の色で表も裏もないようなデザインである。

 が、表も裏も、向きもあったのである。

座布団でお昼寝 200枚並べ終わったところでクライアントに報告に行くと、

「表も裏も向きもめちゃくちゃね。やりなおしてちょうだい」

 とけんもほろろ。ていうか、先輩達よ、あらかじめおしえておいてくれよ、と文句の一つも言いたくなった。とりあえず下っ端=若手ということで、クライアントにへつらって座布団の奥義をおしえてもらう。

⇒【写真】はコチラ http://joshi-spa.jp/?attachment_id=357499

座布団(▲中綿がずれないように、真ん中を留めている糸が見えるのが「表」。また、縫い目が見えず袋状になっているのが「前」)

磨き上げた玄関で、半泣きに……



 あとは置物とかの埃をはらったり、拭くだけだからラクよね、と適当にやっていたら、すかさず先輩から、

「それ、1体数百万円するからね」

 と釘を刺される。雑巾を持つ手に脂汗が出る瞬間だ。皮脂で磨かれて通夜、ではなく艶が出るかもしれないが。

掃除 一間が広いということは、敷地面積が広いということで、廊下が長かったり玄関とおぼしき入口が複数あったりして、方向音痴の私にとってはロープレ状態であった。いちいち迷っているものだから、何度も同じ部屋を行き来し、行き来しているだけだとサボっているみたいだから、なんとなく拭いたり掃いたりしていると、

「何度も同じことやってんじゃないよ」

 と、先輩達に叱られる。

 御影石でできた玄関は「一度掃除した場所は足跡をつけてはならない」という命が下され、

「それ、泥棒みたいですよね」

 と突っ込んでみても聞いてもらえない。足跡のひとつやふたつつけてもバレないと思いつつ、私は何度も何度も、それこそロープレのようにHPやMPがなくなるまで繰り返し掃除をした。

 あげく終了時間になっても私だけ集合しないので迷子扱いになった。先輩達が怒り顔なのに対し、クライアントは仏様のような顔をして言った。

「もういいのよ、お疲れ様」

 ぴかぴかに磨き上げられた玄関で、私は半泣きになった。仏様には見えないはずの足跡が見えるのだろうか。足跡は煩悩の数かもしれない。私には多数ついていたであろう。

 なんてね。

●もりおやま http://morioyama.com/

●森美樹:1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)を上梓
https://twitter.com/morimikixxx
●尾山奈央:1980年生まれ。脚本家、エッセイスト。著書に『1年で20キロやせた私が見つけた月1断食ダイエット』(泰文堂)
http://oyamanao.com/

<お掃除サービス編 TEXT/森美樹>




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