森山直太朗、Cocco…切ない“夏の終わり”に聞きたいJポップ・5選
東京都心で8日連続の35℃超えを記録するなど、とにかく暑かった今年の夏。「エルニーニョだらしねぇわ」との声も聞こえてきそうですが、気が付けばお盆も過ぎ、夜になると鈴虫が鳴くようになりました。
酷暑のあとでふと触れる風に安らぎつつも、どこか名残惜しくなる。そんな微妙な心持ちに寄り添うのは、なぜか洋楽よりもJポップ。というわけで、「夏の終わりに沁みるJポップ5選」。来年の夏こそは、もう少しお手柔らかに願いたいものです。
まずは、何といっても森山直太朗の「夏の終わり」。
<水芭蕉揺れる畦道 肩並べ夢を紡いだ>などの、時代錯誤で冗長な歌詞を補ってあまりあるメロディが絶品です。幅の広いゆったりとした心地よさに、聴き手は安心して身を委ねることができます。さかしらな手さばきで小細工をしないのが、堂々としている。
⇒【YouTube】森山直太朗 – 夏の終わり http://youtube.be/3KwfNuzYmnM
得意のファルセットも、季節の変わり目を告げる風を思わせて効果的。そして何よりも、この曲には暮らしに入り込む力があるように思うのです。
<夏の終わりには ただ貴方に会いたくなるの>
切なさを煎じつめたシンプルなフレーズに、誰もが共感できる。音楽を積極的に聴くわけではない人も巻き込む、普遍的なことを言っている。
これをサビの中心に持ってきたところにも、「夏の終わり」という曲の風格がある。“上手いこと言ってやろう”といった邪な気持ちの消え去ったところに、森山直太朗の開けっ広げな歌が大きく鳴り響くのです。
この切なさを見事にサウンドで表現しているのが、2000年にデビューした3人組アイドルグループ・angeliqueの「F<エフ>」。残念ながら、高いキーで押しの強いボーカルがもてはやされていた時代には勝てませんでした。しかし、R&Bテイストのスムーズなポップスを、シャウトやフェイクなしに聴かせるスタイルは、いまも慎ましやかで涼しげです。
⇒【YouTube】(PV) Angelique – F <エフ> http://youtube.be/nHO8Mri-kHU
一方、バカでかい音で、突飛なアイデアの曲なのに、夏の終わりを感じさせるのが、SPANOVAの「サーフィング」。それにしてもこれを何と形容すべきか。スラッシュメタルバンドがカバーするスライ・ストーンの「Hot Fun In The Summertime」(※)とでも言ったらいいでしょうか。
とんでもない曲なのですが、時間にしてわずか3分。企画倒れにならず、ひとつの“うた”になっていることは、ほぼ奇跡に近い。YouTube上の公式チャンネルで公開されていたのですが、権利の関係でしょうか、削除されてしまっていて残念です。
http://recochoku.jp/song/S20324391/(試聴のみ)
さて、ギラギラと容赦なかった太陽が休息するように、激しい情念にも束の間の凪はやってくる。Coccoの「SATIE」と、鬼束ちひろの「Sign」は、そんなほっと一息つく猶予を与えてくれる曲。
⇒【YouTube】Cocco – SATIE http://youtube.be/ju4TTkeWDs0
「SATIE」は湿り気の名残りを引きずり、「Sign」にはピンと張りつめた空気を先取りするようなテンションがある。どちらも時候の曖昧なつなぎ目にフィットする、うつろいやすさをすくい取った音楽であるように感じます。
⇒【YouTube】鬼束ちひろ – Sign http://youtube.be/BxJ86_wg-3M
※スライ・ストーン「Hot Fun In The Summertime」
⇒【YouTube】Sly and the Family Stone – Hot Fun in the Summertime http://youtube.be/_NVVe1DkVsQ
http://youtu.be/_NVVe1DkVsQ
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
森山直太朗「夏の終わり」は名曲
切なく、うつろいやすい季節……
石黒隆之
音楽批評。カラオケの十八番は『誰より好きなのに』(古内東子)