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「人殺し!」とお年寄りに罵られ…壮絶な介護の現場

 日々、取り沙汰される介護問題。特に、介護職の低賃金、過酷な労働、人手不足……などは社会問題となっています。

壮絶な介護の現場をもっと知ってもらいたい」と話すのは、特別養護老人ホームで介護職として働くAさん(38)。Aさんの体験から現場の実情を探ってみましょう。

介護

人手は足りないのに入居者は増えていく



 介護の現場に入り、まずAさんが驚いたのは仕事の多さ。

「食事、おむつ交換、トイレや着替えの介助、入浴だけでなく、部屋の掃除、シーツ交換など、常に分刻みのスケジュール。みんな『忙しい』が口癖になっていますね」

 この仕事量の多さは施設側にも原因があります。

「施設も儲けを出すためにより多くの利用者を獲得しようとします。

 要介護者3人に対してケアスタッフ1人以上が介護保険法で定められる最低基準なので、施設のパンフレットには『要介護者に3人に対して介護者が1人付きます』などと書いて集客を行います。

 でも、実際は介護を行わない事務員も含めた人数が記載されていることも多いです。事務員も生活介護はできるので虚偽ではないですが、事務の仕事があるので介護仕事なんてほとんど行っていないですよ」

職場いじめの末、解雇に



 常に忙しい介護の現場には“雰囲気が良くない施設”も多いとAさんは言います。

「仕事をはじめたばかりの頃です。私より一年ほど先輩から『ろくに仕事を覚えないし、使えない』と言われたことがありました。でも、きちんと教育的なこともしてもらえなかったんですよ」

 その先輩は、Aさん以外にも、八つ当たりのように厳しく当たっていたそう。

「ある時、その先輩が仕事を抱えていたので『手伝いましょうか?』と声を掛けたんですけど、それが気にさわったようですね。『あなた仕事ができると思ってるの? できないのに手伝うなんて言っても足手まといになるだけじゃない』と言われました」

 そしてAさんは「先輩との連携がとれない」という理由で解雇されてしまいます。が、後に不当解雇を訴え勝訴、損害賠償をもらったと言います。

みんな忙しくて心に余裕がないんです。なので、職場いじめもしょっちょうありますよ……」

 離職率の高さが問題になっている介護職。Aさんはこの後、派遣社員として介護職を続けますが、仕事に慣れるまではさまざまなトラブルや契約解除があったと言います。慣れる前にトラブルに巻き込まれ辞めてしまう人も多いのではないでしょうか。

ケガの耐えない職場……虐待を疑われることも



 その他、介護職には利用者とのトラブルも多くあります。

「認知症の方にお薬を飲ませようとして『人殺し!』と怒鳴られたり、暴言を吐かれたりすることはしょっちゅうです。引っぱたかれたり、頭突きされて唇切ったりしたこともありました。

 頭突きをされた時は、とっさに高齢者の手を握って暴れるのを抑えました。しかし、握った手首に手形がついてしまって……高齢者の方は手形がつきやすいんです」

 その時は、事情を説明し、家族も納得してくれたそう。しかし、時と場合によっては介護者が虐待したと言われてしまうこともあるとAさんは言います。

「家族が理解してくれる場合はいいんです……ただ理解されなかったことを思うと恐いですよね。いつ犯罪者扱いされるかわかりませんからね」

世間からの風当たりがつらい



「よく虐待のニュースがあるじゃないですか? そうなると世間は、事件が起きた施設だけじゃなく、介護職に就く全ての人を批難する傾向にあるんです。

 私は以前、虐待で問題になったグループ会社に派遣されていたことがありました。それを、問題が起こる前にSNSに投稿していたんです。

 するとその書き込みを見た人が『あなたの会社はおかしい』という批難のメッセージを私個人に向けて送ってきました。その書き方はまるで私が虐待したかのようにさえ感じさせました。

 どんなに過酷な現場でも、皆さん真面目に働いています。虐待する人はわずかだということを理解してほしいです」

 私たちの親や、私たち自身がお世話になるかもしれない介護職。その壮絶な現場を知って、真面目に働いている人に敬意を表することで、介護職の人たちも少しは報われるかもしれません。

<TEXT/舟崎泉美>
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舟崎泉美
1984年生まれ。小説・脚本・ゲームシナリオなどを執筆中。著書に『ほんとうはいないかもしれない彼女へ』(学研、第1回・本にしたい大賞受賞作) http://izumishiori.web.fc2.com/




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