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ドン・キホーテはブラック企業?“安売り王”の功と罪

 去る11月21日、従業員に違法な長時間労働をさせていた疑いで、ドン・キホーテが今年6月に東京労働局の家宅捜索を受けていたと、毎日新聞が報じました。

 奇しくも、創業者・安田隆夫氏の自伝『安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生』(文春新書)が発売された翌日のことでした。

ドン・キホーテ新宿東口本店の外観

新宿・歌舞伎町にある「ドン・キホーテ」新宿東口本店

 これまでにも、深夜営業に対する住民の反対運動や、放火事件によってクローズアップされることになった“圧縮陳列”の問題など、ドン・キホーテはたびたび世間を騒がせてきました。

 そもそもドンキは一体どのようにして成功を収めてきたのでしょうか。

 そして、あの独特な店構えや品揃えを実現してきた安田氏とは、どんな人物なのか。あまりにもタイムリーな一冊は、よくある成功者の自伝では片づけられない、やっかいな読後感を残しました。

安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生

欲望むきだしの店構えのルーツとは



 まず目を引くのは、安田氏のパーソナリティについての記述。

 慶応大学への入学を機に岐阜から上京したはいいけれども、そこでカルチャーショックを受けたといいます。

 周りは、金持ちの子息ばかりで、ガールフレンドを連れて高級車を乗り回している。この体験が、安田氏が起業を志す第一歩だったのです。

「どんなことになっても、こいつらの下で働く人間にだけは、絶対になりたくない。ならば自分で起業するしかない。ビッグな経営者になって、いつか見返してやろう」
(第1章 絶対に起業してみせる)

 こうして、“嫉妬と羨み”をモチベーションに独立を目指し、まずは大学卒業後に不動産会社に入社するのですが、そこがなんと10ヶ月で倒産。賭け麻雀で何とかしのぐ、どん底生活を味わうはめに。しかし、そこで培われたという人間観が実に興味深い。

「独立・開業する前に私が放浪していた日雇い労働やプロ麻雀士の世界は、たしかにやや異常でエキセントリックな世界だった。しかしそこはある意味、きわめて原初的な世界でもあった。何の制約も規則も決め事もない中、生身の人間と人間が欲望と情念をむき出しにしてぶつかりあうさまを、私は何度も目撃し、体で実感してきた。
(中略)求められるのは瞬時に相手の心の動きや欲求をキャッチする鋭敏な感性だけである。」

(第1章 絶対に起業してみせる)

 辛酸をなめていた時期に、消費欲が押し寄せて来るような、あの商品陳列に通じる真理を見出していたことは注目に値します。ところが、ここが難しいのですが、経営理念や社員の動かし方といった、実際的なメソッドの話になると、そのカリスマ的な部分が影となってちらつくのですね。

現場はホントに仕事を面白がってるのか?



 その最たるものが、“現場への権限移譲”。なかなか言うことを理解しない従業員に業を煮やした安田氏は、とうとう仕入れから販売に至るまでの流れを、現場の人間に任せることに。すると、社員のやる気が変わったといいます。

「権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)に変わったからだ。社員同士で競いあいながら、面白がって仕事をするようになれば、以心伝心でお客さまもそれを面白がり、店は一気に熱気と賑わいに包まれて行く。」
(第2章 ドン・キホーテ誕生)

 けれども、よくよく考えれば、誰もが仕事をゲームとして楽しまねばならない理由など、どこにもないのですね。幹部候補生ならともかく、いち社員やパート、アルバイトにとって、やはり仕事はワークに過ぎないのではないでしょうか。

 もし、このように後付けされた積極性が、違法な長時間労働を生み出す土壌になっていたとしたら、責任の所在をどこに求めたらよいのでしょうか。

 とはいえ、本書から得られる教えは少なくありません。善悪や好き嫌いを超えた現実をつかみ取ることの重要性が、痛いほど伝わってくる。

 本書を読み終えた今でも、筆者はドン・キホーテで買い物をしたいとは思いません。それでも、安田氏の言葉には、合理性で検算することのできない、事実のかたまりのようなものがある。それは、やはり傾聴に値すると感じるのです。

<TEXT/比嘉静六>

安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生

驚異の「26期連続増収増益」ドンキホーテはいかにして生まれたか?
今年6月期には売上高約6500億円となり、ついに三越伊勢丹を抜いたドンキホーテ。同社を率いてきた安田隆夫CEOは、普通の企業人とは大きく異なるユニークな経営哲学の持ち主だ。
波乱万丈の人生物語で一般読者を引きずり込み、独自の経営哲学でビジネスマンも唸らせるユニークな半生記。




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