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今、震災ご遺族が求めているものとは?【石井光太(作家)×松田広子(イタコ)】

 東日本大震災の遺体安置所で起きた極限状態を、壮絶なるルポルタージュ『遺体』に書き上げた気鋭のノンフィクション作家、石井光太。後継者がおらず「最後のイタコ」と呼ばれる現役にして最年少イタコの松田広子。この二人が、徳間書店「読楽11月号」にて初対談!

 見えないものの大事さ、そして遺族にとっての救いについて語り尽くす――。

震災ご遺族が「今」求めているもの



石井光太,松田広子石井:僕は東日本大震災直後から今にいたるまで被災地の方々から話をお聞きしてきました。その中でご遺族たちが「今」求めているものが何かを考えると、イタコがやっていることとつながるのではと思っています。

 たとえばご遺族のお話をうかがっていると、「亡くなったお父さんがお化けになって帰って来た」という方もいれば、まだ行方不明になっているご家族の居場所を「拝み屋さん」というところに聞きに行くという方もいる。また、亡くなった息子さんの携帯電話が見つかって、その携帯が壊れているのに時々ピカピカと光るのを見て、「やっぱり魂がこっちへ戻って来て、見守ってくれている」と感じるという方もいるんです。

 そうした事例を見聞きして思ったのは、今ご遺族が求めているのは、目に見えるものや言葉なんだろうなということです。それらが科学的に説明できるかどうかというのは関係ないんですね。お葬式などの儀式を行うだけでは、まだ気持ちを支えきれない、その足りない部分を補う何かを求めているのかなと思うんです。僕はそれを「小さな神様」という呼び方をしています。

松田:石井さんがおっしゃる「小さな神様」というのは、何か目に見えるもの、耳に聞こえるものとして亡くなった方の存在を感じることによって「ああ、守られているんだな」というふうに思いたい、信じたいという気持ちですよね。

石井:もちろん仏教やキリスト教などの「大きな神様」、宗教というものもあるんですが、それと同時に、宗教としては名前が付かないけれども、同じような役割を持っているものがあると思うんです。

 そして「大きな神様」と「小さな神様」に対しては、どちらのほうが正しいとか、優れているとかいうことは関係なく、それを必要としている人に対して肯定してあげることが重要だと思うんです。それが社会の、大きな意味での豊かさ、幸せというものにつながってくるんじゃないかなと考えています。

松田:私にご依頼くださった方の中にも、寝ようとして床につくと、トントン、トントン、と水が滴るような音が聞こえるという方がいました。それを聞いて「ああ、お父さんが来てくれているんだな」と思い、また聞こえない時には逆に心配になると。

 もしかしたら、精神的なもので疲れているからこそ、そういう音が聞こえてしまうのかもしれないですけれど、本人はお父さんだと思いたいんですよね。そういう「信じたい」という気持ちを肯定してあげることが、苦しい気持ちや不安な気持ちを和らげることになるというのは、本当にそうだと思います。

石井:実は僕もそういう経験があるんです。『東京千夜』の中でも書きましたが、祖父が十数年前に亡くなって、そのお葬式の時に、一匹の蠅が飛んできたんです。それを見て、僕も家族もみんな「おじいちゃんが帰って来た」って言い合っていたんですよ。その話を別の方にすると、「うちもありましたよ、うちの場合は蝶でした」って言うんです。

松田:虫一匹を見ても、そういうふうに誰かが来てくれているんだなと思われるというのは、やはり本来は目に見えないものだからこそ、目に見えるものに頼りたい、安堵したいという感じなんでしょうね。

石井:こういう話って、世の中には多々あるんだと思うんです。松田さんのご著書『最後のイタコ』を拝読させていただいて、イタコというのは、遺(のこ)された人がそういうものを求める気持ちに対して、肯定してあげる仕事なんだなというのを感じたんです。

 彼らを精神的な意味で支えるというのが、イタコの仕事なんだろうと思います。松田さんのところには、震災のご遺族が来ることもありますか?

松田:ありますね。震災直後よりも、最近になってお会いすることが多くなっています。

石井:やっぱりそうですか。震災直後は、現実の過酷さがあまりにも強すぎて、きっとお化けのような、非現実的なものが介入して来る余地がなかったんですよね。実際にご遺族も、津波に呑まれたご家族を必死に探しているような状態でした。だけどしばらくしてだんだん落ち着いてきた時に、「まだ葬儀ができていない」「助けられたんじゃないか」ということを考え始めるんです。

 その時期から、「被災した町のほうにお化けが立っていた」といった話をよく聞くようになりました。霊の世界に対して想像力を向けて、喪失感を埋めるようになるには、ある程度の時間が必要なのかなと思います。ですから松田さんが「最近になって多くなっている」というのも、納得できますね。

松田:仮設住宅が建って皆さんが少し落ち着いたあたりから、お化けが出るという噂が出たりしたようですね。でも、まだご遺体を探していらっしゃる方もいて、夜に懐中電灯を照らしながら歩いているので、その光を見てお化けだと思ってしまった、ということもあるのでしょうけれど。

 イタコの口寄せは、亡くなって四十九日から行うことができます。でも、早いタイミングで亡くなった方の思いを聞いてしまっても、心の整理ができていないので、なかなか悲しみが癒えないということもあるのでしょうね。震災のご遺族に限らず、一年とか三年くらい経ってからいらっしゃる方が多いです。

石井:それまでの期間は、皆さんいろいろな形で大事な方の死と向き合いながら、あるいは消化しきれない部分を探したりしているのかもしれません。そして、その消化しきれない部分に対して説明や、形、言葉などを求めていくのだと思います。

※対談の続きは「読楽11月号」にてお読みいただけます。

<構成/徳間書店『読楽』編集部、撮影/関根将由>

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