愛も性も、すべてを一人に求める結婚には無理がある【こだま×渡辺ペコ】
これまで“普通”とされてきた結婚や家族のあり方を問い直すような作品が相次いで刊行されている。
1月の発売以来、大きな話題となっているこだまさんの私小説『夫のちんぽが入らない』や、不倫公認の夫婦を描いた渡辺ペコさんの漫画『1122(いいふうふ)』もそのひとつ。
そんな2人が初邂逅し、結婚や夫婦の“矛盾”を語り合った。
こだま:渡辺さんが『1122』を描かれたのは、「そもそも結婚という制度に無理があるのでは?」と思ったことがきっかけだそうですね。
渡辺ペコ(以下、渡辺):ひとつの婚姻契約の中に含まれている項目があまりにも多すぎるのではないかと思っていて。愛情や信頼、生活、経済活動、セックス、子供をつくることなど、すべての価値観が合致するパートナーを若いうちに見極めるのって難しいのでは? と、年を重ねて、より強く思うようになったんです。
こだま:私も、付き合った延長線上で自然と結婚するものだと思っていて、そこまで深く考えていませんでした。
渡辺:こだまさんは、夫とセックスできないという問題を抱えながら、彼の風俗通いを黙認しますよね。そこにもやもやした気持ちはなかったですか?
こだま:私の知らない間に風俗のスタンプカードが溜まっているのを見て、ずるいとは思いましたが、「私がちゃんとできないから仕方ない」と受け入れていました。むしろ、家の中に性を持ち込まず、外で済ませてくれるほうが気がラクでしたね。
渡辺:(担任を務めた小学校のクラスの)学級崩壊で精神のバランスを崩されていたときに、出会い系で知り合った男性と会う描写がありましたが、そこで出会い系にハマったり、楽しんだりすることはなかったんですか?
こだま:私にとっては、その場しのぎでお酒や薬に手を出すような感覚でした。家で学級崩壊のことを悩み続けるか、外で知らない男性と会って学校のことを忘れるかの二択しかない、と勝手に自分を追いつめてしまって。
渡辺:気持ちの逃げ場として、どうしても必要だったんですね。
こだま:夫に打ち明けたり、病院に行ったりすればよかったんですけど、身の回りの親しい人には自分の思っていることを言えない性格なもので。
渡辺:そうした精神状態は、執筆活動をすることで変わりましたか?
こだま:ええ、悩みを文章にすることで、内に溜めなくなりましたね。本を読んだ方からよく「問題が何も解決してない」と批判されるんですが、当時の自分は「私さえ我慢すれば解決する」と本気で思い込んでいました。本を出して初めて、こんなに悩まなくてよかったのかも、と気づけたんです。
渡辺:それはとても大きな転換でしたね。この本は、世間の「こうあるべき」という価値観の押し付けに対して、巨大な一石を投じましたよね。