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画像から“個人”が探しだされる時代の心構えとは? 風俗嬢が怯える、ネットに残り続ける「私」の写真vol.2

 元風俗嬢が悩む、在籍した店に掲載され続ける自分の写真。

「仕方がないじゃん。自分の意思で働いたんでしょ?」と思う人も少なからずいるでしょう。しかし、もしも彼氏が自分の恥ずかしい写真をネットにアップしてしまったら? 

「仕方ないじゃん。そんな男とつき合ったのはあなたでしょ?」――。

 そんな言葉を投げかけられたときの、気持ちを想像してみてください。風俗嬢が現在、そして将来に抱える悩みと苦痛は、皆に降りかかるかもしれない問題です。

 ネット上のある「私」の写真の肖像権は「私」にあります。それをコントロールするのも自分。GAP代表理事の角間惇一郎氏と「弁護士ドットコム」トピックス編集長の亀松太郎氏の話は、肖像権・著作権の話から、さらに「忘れられる権利」の話題へと広がっていきます。

⇒vol.1『ネット上の「私」の写真、著作権は誰にある?』
http://joshi-spa.jp/82819


ネットの写真はなぜ消せないのか?



亀松太郎

「写真と特定の個人が結びつけられた状態で認識されることが問題」と亀松氏

角間:初歩的な質問ですが、なぜネット上の写真は消せないのですか? アップした瞬間に消せなくなるのでしょうか? どこかに境界があるのでしょうか?

亀松:ネットに写真をアップロードした場合、その直後は、ひとつのサイトに1枚だけ写真が載っている状態です。だから削除しようと思えば、削除できる。問題は、デジタルの特性として、簡単にコピーして転載できることです。自分がアップロードしたところは自分の手が及ぶところだけれど、誰かがそれをコピーして別の場所にアップロードしたら、それはもう他人の領域なのでどうにもできないのです。例えばツイッターで自分のタイムラインだけで画像をアップしていればそれは自分の領域なので自分で消せるのですが、他人にコピーされて流されてしまったら、それを自分が消すことは技術的には無理です。そうすると、その人にお願いして削除してもらわないといけなくなります。

角間:なるほど、そうやって消せなくなっていくわけですね。

亀松:リベンジ・ポルノも、次から次へと広がっていってしまうことが一番の問題ですね。

角間:拡散のスピードと本人へのダメージって間違いなく比例していると思うんです。“ポルノ”ってインターネット上で最も検索、閲覧されるキーワードらしくて……リベンジ・ポルノもポルノが絡むだけあって、ネットにおける燃焼速度がほかのスクープ写真以上に速く、それが輪をかけて厄介な事件にしているように思います。

亀松:ただ、ネット上にそういったポルノ的な画像はたくさん上がっていますが、ほとんどの場合、その画像が誰の画像かは意識していないことが多いように思います。そういうときには実害はあまりない。

角間:個人と肖像が切り離されている状況ですね。

亀松:はい。問題は写真そのものよりも、写真と特定の個人が結びつけられた状態で認識されることのように思います。だから風俗の店に自分の写真がアップされていることに気持ち悪さを感じる気持ちはわからないでもないのですが、ただ載っているだけの状態なら実害はないと言えます。問題は、それが誰の写真かわかって、さらに知り合いなどに波及していくことです。載っている以上はそういうリスクはあるのですが……。

角間:mixi全盛期に、ファイル共有ソフトと相まって、働いている会社の内部情報や自身の私的な写真が流出して問題となったことがありました。これは、ポルノ画像の流出と、SNSによる個人特定が合わさったことが大きな原因だったと思います。

亀松:そうです。写真だけなら問題ないのですが、あの問題からわかることは、個人情報と一緒に流れちゃった写真を、タチが悪いことにネットで拡散する人がいるということです。

角間:風俗で働くコが仕事中、「本指名」という、いわゆるリピーターのお客さんに対し、ふとしたときに個人情報を言ってしまうことがあります。本名とか出身とか。今はmixi時代よりもSNSが普及しているので、名前がわかるだけでもあっさりと個人を特定できてしまう。先ほど、「30万人総リベンジ・ポルノ」という話をしましたが、デリヘル化とSNSの普及が大きな原因となるわけですね。

画像検索「適合率○%」の時代も目前



亀松:さらに問題は、画像検索技術が今すごく発達しているんですね。今は限られた一部の専門機関でしか使われていませんが、個人がそのような技術を使える時代がきてしまうと、画像をツールに入れて検索をかけると、ネットからそれと似た画像が探し出されて、「適合率何%」といった形で把握できるようになってしまう。今は文字情報で個人情報を認識していますが、近い将来名前はわからないけど、この画像とこの画像は同じ人だって結びつけることが可能になると考えられます。

 写真が加工されていればいいのですが、撮影した元の写真そのものを使っていたりすると、それこそお店に載っている写真とFacebookの写真が繋がってしまう可能性もあります。

角間:通信会社のエンジニアの方が、似たようなことをおっしゃっていました。解像度が上がれば、写真に写った目の虹彩から個人が特定できるようになるとか。驚きです。これから風俗店で働く女のコは、ある程度、写真の管理について個人的に備える必要がありそうですね。

亀松:拡散してしまうと、手遅れになってしまうのです。最初は“日本の中”のサイトだったかもしれないけど、気付いたら誰が使っているかもわからない海外のサイトにいってしまうかもしれない。種が小さいうちに、どうにかする必要があるのかもしれないですね。今は大きな問題は起きていないけど、3年後は起きているかも知れない。

角間:SNSの普及で写真のネット流出に関する相談が徐々に増えてきた。こうした時代にあたって、弁護士という立場は何ができますか?

亀松:例えば、被害者の代理人として裁判所を使って削除請求をすることが考えられます。さきほど紹介したインターネットの誹謗中傷を専門にしている弁護士は、2ちゃんねるに誹謗中傷を書かれた人の代理人として削除要求を行ったりしています。そういう場合、2ちゃんねるは裁判所の命令があれば応じます。

角間:2ちゃんねるは、裁判所側の命令がなければ削除には応じないのですか?

亀松:そうですね。2ちゃんねる独自の削除要求を受け付けるシステムもありますが、要求したから必ず削除してもらえるわけではありません。2ちゃんねる側の言い分としては、「このカキコミは私への悪口なので消して下さい」と言われても、本当にその主張が正しいのかわからない。また「ブラック企業」とカキコミで批判されている会社から削除を要求されても、その会社が実際にブラック企業だとしたら、事実だからと消さないという立場です。実際のところ、その辺の判断は難しいので、裁判所に判断してもらうというのが2ちゃんねるのやり方です。

角間:僕も調べてみたのですけれど、2ちゃんねるだけでなく、それなりにどのサイトも削除申請の小さな窓口があるようです。ただ、代理人を通した削除申請を行うには、弁護士を通さないとダメみたいで、このあたりが風俗嬢のように、立場を知られたくない人にとって壁になっているのかなと。

亀松:そうですね。結局、なんらかの法的な権利に基づいて法的な主張をすることは法律的な行為になり、そういうことをやるのは弁護士のみに許されているので、弁護士を通さないと非弁行為ということで、違法になってしまいます。

角間:たとえば、僕らのようなNPO側に、写真の削除を代わりに言ってほしいという相談がきて、我々が応じたらそれは非弁行為になるのでしょうか?

亀松:NPOとしてやったらそれは非弁行為になると思います。「弁護士ドットコム」トピックスに、元交際相手の借金の取り立てを友達の代わりにやったら非弁行為か?という記事があるのですが、そこでは業務としてやるかどうか、報酬を得る目的でやるかがポイントになっています。報酬を得る目的でないのなら法律には触れませんが、慎重になったほうがいいかもしれません。なので、本人がやっているということをアピールして、代理人ではなくサポートとしてやるのがいいのかも。この部分は非弁と認められると大きな問題になってしまうので、詳しい人に聞きながらやるのがいい気もしますね。

角間:聞けば聞くほど、インターネット上にきわどい写真をアップするというのがいかに危険な行為なのかが……。

亀松:難しいのは、本人は別に外に出すつもりはなくて履歴書に貼るくらいの気持ちでネットに写真をアップしたら、気付いたら広まっているということもありますからね。

「忘れられる権利」と「表現の自由」



角間惇一郎

「理想は風俗でもAVでも興味本位の対象としない寛容な社会」と角間氏

角間:話は変わるのですが、ところで亀松さん、ご自身の中学とか高校のときの卒業アルバムって見返したいと思います?

亀松:僕は思わないですね。

角間:僕も思わないです。中高のときの記憶なんて黒歴史だし、卒アルに寄せ書きとかも書いてないし(笑)。昔の写真を残したくないという思いがある人もそれなりにいると思います。ただアーカイブを目的としない、たとえばTwitter上にアップする写真となるとリテラシーが低くなってしまうのかなって。写真についてのリテラシーというより、そのときのノリに左右されてしまう。人間って厄介です(笑)。テクノロジーの進歩がなんらかの事件に繋がるほうが早いか、それとも僕らがリテラシーを持ってインターネットを使いこなせるようになるのが早いか。

亀松:リテラシーの問題ってすごく大きいのですが、Twitterなどで安易に写真をアップしちゃう人、たとえば今の10代くらいの人って本当に若い頃からインターネットに触れているじゃないですか。その入り方が、携帯やスマホで自分の近い人たちとやりとりするところから始まっていると思います。そういう人たちにとって、インターネットは知っている人とのコミュニケーションツールというイメージが強いのではないでしょうか。そういう使い方はインターネットの代表的な使い方ではあるのですが、Twitterなんかの場合、みんなが見ているところで情報をやりとりしているという意識が薄いんじゃないかなと思います。そういった部分をちゃんと教えてもらわないといけない気がします。

角間:見える化ですね。ただ、仕組みが目に見えないネットの裏側をどう教えるかって難しいですよね。

亀松:僕の個人的な意見では、学校で教えるしかないと思います。こんな悪い人もいるということも含めて、小中高で繰り返し教える必要があるのかなと。ただ現実には、先生もいまいちわかっていない部分があるから、今は、あまりネットを使わせないという規制の方向に向きがちです。でもこれからの時代にネットを使わないってことはありえないから、使う前提で仕組みを教えて使い方を誤らないようにしないと。

角間:僕がこの風俗嬢×リベンジ・ポルノ問題に気付き始めたのって、「辞めたんだけど写真がお客さんのもとにあって……」っていう相談をいただくようになったからです。はじめは感情的に、アノニマスのように「ハッキングして消せないか!?」って思ったのですが……知り合いのエンジニアに聞いたら、できなくはないけど確実に捕まると言われました(笑)。

亀松:パスワードで制限がかかっているようなところに勝手に入れば、不正アクセス禁止法で犯罪成立しちゃうのです(笑)。

角間:なるほど(笑)。

亀松:あとは、どこまで現実的といえるかわからないけれど、ヨーロッパなどでは「忘れられる権利」があります。ヨーロッパの女優さんが過去に撮ったヌード写真を消して欲しいと訴えたときに出てきた考え方なのですが、過去に自分が同意した上で出した写真でも、状況に応じて消してもらえることを「忘れられる権利」というんです。日本でも去年少し話題になっていて、弁護士ドットコムトピックスでも記事を掲載しています。

 まだ抽象的な話ですが、今後、法律で具体的になる可能性もない訳ではないです。風俗の写真トラブルの際、今は裁判所から削除命令がでても強制的に削除することはできないのですが、「忘れられる権利」ができたら、警察的な機関が直接サーバーにアクセスして削除することができるようになる可能性もあります。だから、そういう「忘れられる権利」を制度化するように、政府や社会に提言していくということもあるでしょう。ただこれは、表現の自由と対立する話なので難しいところです。

角間 「先ほどの2ちゃんねるの話で出てきたように、忘れたい過去を全部削除してしまったら2ちゃんねるの面白さはなくなってしまうんだぞ!と。

亀松:さらに、例えば、誰かが政治家の過去の悪いことをネットに流したとします。当然、政治家としたら忘れられたいことです。でも投票する人にこの政治家の過去のことを知らせるのは必要な情報ですね。そういう面でも、どこで線引きをするか。

角間:なるほど。風俗嬢のリベンジ・ポルノ被害に対する具体的な備えとして、弁護士さんと知り合っておくというのが有効だと感じました。非弁行為や肖像権のことなどからも。

亀松:そうですね、ただ、「弁護士ドットコム」での匿名状態での相談だと、個人の事情を100%理解しているわけではないのであくまで一般論の話になります。

角間:どちらにせよ、今後リテラシーを高めていかなければいけないと。

亀松:本当に今、困っているのだったら、直接弁護士に相談したほうがいいのかもしれません。あるいは、NPOと弁護士が顧問契約を結んで、何かあったときに頼りにするというのもひとつだと思います。ネット上の問題って、ある程度はパターン化できるので、裁判所に大体同じようなフォーマットで削除要求して、認められたら削除してというのを繰り返す感じになります。弁護士側も数が集まれば効率的にできるという側面があります。

角間:理想論ですが、風俗をやっていようがAVをやっていようが興味本位の対象としない寛容な社会になればいいと思うのです。ただ、人々が寛容になることと、リスクが顕在化することのどちらが早いかといえば、後者なのだと思います。ならば先手は打っておかないといけませんね。

【亀松 太郎】
東京大学法学部卒、朝日新聞記者を3年務め退社。その後複数のネット系ベンチャー企業に関わったのち、法律事務所でリサーチャーとして3年間勤務。さらにその後、2006年からは「J-CASTニュース」のネットメディア記者になり3年半ほど過ごした。2010年からはニコニコ動画で政治・報道番組の企画やニコニコニュースの編集長を務めた。現在は「弁護士ドットコム トピックス」の編集長として活躍している。

【角間 惇一郎】
1983年生まれ。一般社団法人GrowAsPeople代表理事。建築、空間デザイナー。夜の世界で働く女性たちが抱えがちな課題である「立場を知られる事を恐れ、相談や支援を受けられない」の存在を知り、2010年から、サポートと課題の顕在化を目指して活動を始める。現在はデザイン思考による解決がテーマ。越谷市男女共同参画推進委員(Twitter : kakumaro)。GrowAsPeopleブログ(http://growaspeople.info/)

<構成/女子SPA!編集部>




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