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なんで久保田利伸の甘~いバラードで打席に…野球選手テーマ曲の謎

 3月28日にセパ同時に開幕し、各地で熱戦が繰り広げられているプロ野球。各球団が女性向けのグッズ開発と選手のメディア露出に力を入れている影響でしょうか、外野スタンドにピンクのレプリカユニフォームを着て応援する若い女性の姿も多く見受けられます。

 そうした客席のカラーが変わったこともあるのでしょうか。最近では応援団が演奏するラッパと太鼓による応援歌の他に、投手がマウンドに上がったり野手が打席に入ったりする際に流れるテーマ曲もバラエティに富んで楽しいアトラクションの一つとなっています。

 もちろん全ての選手が音楽にこだわりを持っているわけではないでしょうから、球団職員の方がだいたいのイメージに合う曲を選んでいるケースもあるとは思います。

小笠原の『Batdance』、そのBatはコウモリだけど



 たとえば、昨年まで巨人に在籍していた現ドラゴンズの小笠原道大選手のテーマ曲はプリンスの『Batdance』でした。

 もし小笠原選手がプリンスのファンだったら申し訳ないのですが、これは恐らく「小笠原=打撃職人=バットマン」という図式が職員の方の頭に浮かんだのではないか。だとしたらここはもう『Batdance』一本だろう。そんなマジカルバナナ的な連想の産物だったように思われます。

 とはいえ、この曲名のバット(コウモリ)と木製のバットとは違うだろうとツッコミが入るかもしれません。しかしそんな細かいことはどうでもいい。こういった雑な選曲が小笠原選手とプリンスという未知のコラボを実現させた。その偶然が楽しいのです。

 一方、小笠原選手のケースとは対照的に思い入れのある楽曲を選ぶ選手も数多くいます。小笠原選手と入れ替わるように巨人に入団した井端弘和選手が09年に使用していたのがなんとビートルズの『While my guitar gently weeps』。

 当時の井端選手によると「ビートルズの中でもあまりメジャーではない曲を」ということで選んだそうなのですが、なんでも奥様のご趣味だったとのこと。あまりにも渋い楽曲ですが、やはり一人で戦っているのではないとの気持ちを音楽に託したアスリートらしい選曲として記憶に残るものでした。

※記事の最後に「記憶に残る選曲リスト」あり

實松、まさかの『Missing』で<アイラ~ビュ~>



「missing」はファーストアルバム『SHAKE IT PARADAISE』(1986年)に収録。久保田利伸の写真もバブル前夜の香りがする

 しかし今年になって、この小笠原方式、井端方式のいずれにも該当しない破格の選曲を強行した選手が現れたのです。

 読売ジャイアンツの控えキャッチャー實松一成選手。彼が春先のオープン戦に出場していざ打席に入る際、球場に流れたのが甘い、甘~いラブバラードでした。

 <アイラ~ビュ~ か~なわな~いものならば~ い~っそ~わすれたい~のに~>

 まさかの久保田利伸でした。

 これから140キロを超える速度で向かってくる硬球を撃ち返さなければならないのに『Missing』でした。

 もちろん井端選手のように奥様との思い出の曲かもしれない。だとしたら……。いや、それだと歌詞が非常にまずいことになります。叶わなかった恋を未練たっぷり砂糖漬けにしたようなこの楽曲はあまりにも危険です。するとこれは實松選手が個人的に気に入っている曲だと理解するのが自然でしょう。

 当然『Missing』以外にも好きな音楽はあるでしょう。

 同じ久保田利伸ならば、もっと気分を高揚させるようなアップテンポの楽曲はいくらでもあったはずです。にもかかわらずカクテル越しに夜景を眺めるようなバブリーなスローバラードを選曲するところに、實松選手の個性が際立っているように感じます。

 巨人には球界を代表するキャッチャーの阿部慎之助選手やドラフト1位のイケメンルーキー小林誠司選手といった実力者がそろっています。特に小林選手の加入は實松選手を大いに刺激しているであろうというのが大方の見解です。しかしそんな厳しい状況を悟られないような選曲。

 自身を鼓舞させるための音楽でもなければ、大事な誰かの思いが込められた曲でもない。(込められていたら大変です)のみならず『Missing』のあとに「かっとばせー!!」と叫ばなければならない応援団の気持ちはどんなものだろう。實松選手の選曲はそういったスポーツと音楽との関係をぶった切ります。試合中ベンチで淡々と戦況を見つめる實松選手の姿が映し出されると、そんな彼の悪意のない無神経さに憧れてしまうのです。

 ところが4月8日、今シーズン初の先発出場を果たした實松選手の登場に『Missing』の調べはありませんでした。ジャイアンツの公式サイトに掲載されている選手テーマ曲リストにあるのも別の楽曲。なんていけずな實松選手。また気が変わったら『Missing』とともに打席に向かってほしいと、切に願っております。

記憶に残る選曲



●ヤクルト バーネット
→ZZトップ『Sharp dressed man』 ヴァンヘイレン『Panama』

アメリカンロックの王道を選曲。彼が登場すると球場がMLBっぽい雰囲気になります。現在怪我により戦線離脱中。早く復帰していただいて聴きたいものです。

●ファンモン人気 
 田中マー君の影響か、投打問わず人気が高いファンキーモンキーベイビーズ。“家族”“感謝”“汗”“涙”が過不足なく盛り込まれているのがその理由でしょうか。

◆ソフトバンク 李大浩(イ・デホ)
→ハリー・ベラフォンテ『バナナボート』 

ドジャース時代の野茂英雄投手が登板する際、“ヒデ~オ ヒデ~~~オ~”という替え歌で登場。同じように歌いだしが「イデホ」に似ているから使用されているのでは?

●阪神時代の藤川球児
→リンドバーグ『every little thing every precious thing』

ブルペンからリリーフカーで登場する際にかかった曲。スタンドも巻き込んだ大合唱に。

●日ハム 稲葉篤紀
→クイーン『I was born to love you』

チャンスで打席が回ってくるとかかる曲。それに続いてスタンドで起こる“稲葉ジャンプ”は震度3に相当するという。

●ベイスターズ 中村紀洋
→『暴れん坊将軍』のテーマ

MLB挑戦も「水が合わない」とすぐに帰国したノリさんならでは。日本球界復帰後も各球団と銭闘を繰り広げるその姿は暴れん坊。

●球界制覇も夢ではないAK-69
AK-69は名古屋出身のヒップホッパー。中日の8選手が使用しているのを筆頭に、巨人、阪神、ヤクルト、ソフトバンク、楽天、西武と勢力拡大中。

●ソフトバンク 山下斐紹
→Sugarless Infant『モラトリアムの言い訳』
マイナーなインディーズ系バンドの知る人ぞ知る楽曲を使用。しかし寝坊による遅刻で2軍落ちを経験。言い訳は通用しなかった模様。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>




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