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「南の島は行っても、隣の県なんか行かないで」ーー鈴木涼美の連載小説vol.2

『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』、『おじさんメモリアル』などの著作で知られる鈴木涼美による初の小説『箱入り娘の憂鬱』第2回! 鈴木涼美『箱入り娘の憂鬱』

第2回「南の島は行っても、隣の県なんか行かないで」

 ミミちゃんやミミちゃんのママたちとは、夏休みや春休みにハワイでも一緒に遊ぶことがよくある。ワタシたちの通うマリア幼稚園には他にも、休みはハワイとかグアムとか、オーストラリアに旅行に行くっていう子はいたけれど、せいぜいみんな年に一回という中で、うちとミミちゃんちは気軽にもっとたくさん行くという家だった。  ミミちゃんとハワイに行くようになってワタシはよかったと思う。世の中にはハワイに行く人もいれば行かない人もいるけど、それがヒンプの差とは全然関係ないってことがよくわかった。うちがハワイに行くのは、たまにしか会わないパパがハワイが好きでオアフ島とハワイ島に一軒ずつお家を持っているからだけど、ミミちゃんちはオアフ島にもハワイ島にもマウイ島にもお家なんて持っていなくて、一番安い飛行機で、一番安いコンドミニアムに泊まりに行く。同じクラスのナオコちゃんやタカヒロ君のお家は、うちのママも「お金持ち!」なんていうほど大きな家に住んでいて、タカヒロ君はお父さんだけじゃなくお母さんもお医者さんだけど、ハワイには行ったことがない。  ヒンプの差っていうのは確実に存在するのに、何をみんなそんなにニッポンは格差がないとか、国民総中流とか言ってるんだろうと思う。うちのママは飛行機は絶対に安い席には座らない。ミミちゃんのママが、絶対に高い席なんて座らないのと同じように。同じマンションのセイラちゃんのママは、仕事は高い席、遊びは安い席、なんていう分け方をしているようだけど、少なくとも席に高い席と安い席があるのはヒンプの差だ。ミミちゃんとミミちゃんのママはよく「飛行機でお蕎麦がでた!」なんてはしゃいでいるけど、うちのママはビジネスクラスで出る食事もいらないとか言って、いつも自宅で大量のサラダを食べてから空港に行って、飛行機に乗ったら睡眠薬を飲んでずーっと寝てる。 「うちはビンボーだから、前にフランスに行った時なんて途中の国で四時間もかかる乗り換えをしたんだから」 とアラモアナショッピングセンターのフードコートで中華を食べながら、ミミちゃんは言っていた。その日、ワタシとミミちゃんはあいにくの雨でハワイのうちの庭にあるプールで泳ぐ予定が叶わず、ショッピングセンターのディズニーストアへ、ティンカーベルの砂を買いに来ていた。ティンカーベルの砂は、ワタシとママがミミちゃんたちより一足早くハワイについた当日に、隣の家にバカンスで来ていたキャロラインが持っていたもので、ワタシはそれがすぐにでも欲しかった。ミミちゃんに話したら、ミミちゃんも欲しいと言ったので、うちのママの運転で来たってわけ。  ディズニーストアでもなかなかお目当のキラキラした粉が入った小瓶は見つからなかったけど、ミミちゃんのママがお店の人にティンカーベルのパウダーだ、と言って探してもらって無事に二人とも買えた。実はディズニーストアに着く前に、たまたま通った宝飾品のお店のショーウィンドウに飾ってあった紫水晶の上に小さな銀色の魔法使いと馬が乗った置物が可愛すぎて、うちのママに、ワタシのぶんとミミちゃんのぶんをねだった直後だったから、粉を買ってもらえなかったら本末転倒、なんて思っていたけど、そこはミミちゃんのママが気前よく二人ぶん買ってくれた。ちなみにその宝飾品のお店では、ミミちゃんのママはお土産、といって紫水晶が付いていない小さな銀色の魔法使いだけを二つ買っていた。
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粉を買ったあと……
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