40歳になったころからは、彼女の両親の具合が悪くなり、ほぼ実家で過ごすことが多くなった。
彼はこの間、毎月、生活費として10万円を仕送りしてくれていた。
「その期間を私は仕送り婚と呼んでいるんですが、私が彼のところに帰るのは月に1、2回。それでも彼はもともと家事を全部やっているくらいだから、
私がいなくても物理的にはまったく困らないんですよね。帰ると、なんとはなしに話をして私の愚痴なんかも聞いてくれて」
そして両親を相次いで見送り、ここ数年はまた一緒に暮らしている。今、仕事を探している彼女に対して、彼は親身になって相談に乗ってくれている。
「履歴書を書くとき、既婚未婚のところをどうしようと言ったら、『事実婚だと言えばいいじゃん』と。彼の中では事実婚という認識なのかと初めて知ったんですよね(笑)」
今までは、婚姻届はどちらでもいいとアキさんも思っていた。だからそれほど重視していなかったのだが、
年齢が上がるにつれ、法的にまったく守られていないことが不安につながるようになっている。
「あるとき突然、
もう一緒にいたくないから出て行ってと言われたら、私は行くところがないんですよ。そんな冷たいことはしないだろうと信じてはいるけど、いつどうなるかわかりませんしね。お互いに保険の受取人にもなれないし、どちらかが手術となっても同意書すら書けない場合が多いらしいんです」
日本ではまだまだ事実婚のデメリットが大きい。パートナーシップ制度が同性間だけでなく、異性間にも広がっていく必要があると個人的には思う。
家計も家事もすべて彼が仕切っているので、彼女は基本的にはなんら心配なく日常生活を送っている。ただ、だからこそ「単なる居候」なのではないかと不安にもなるのかもしれない。
「でも私が戻ってきてから、月に数回、一緒に外食するようになったんです。以前は皆無だったんですけどね。おいしいものをふたりでゆっくり食べて、また来ようねと言う瞬間はやはりうれしいですね」
恋愛感情はもはやほとんどない。だが彼と一緒にいる安心感はある。正式な結婚制度に則っていないので、どこか緊張感も残っている。こういう関係も悪くはないのではないだろうか。
<文/亀山早苗>
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