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2度の流産やPTSDで苦しんだ…眼帯の女性戦場記者が暗殺されるまで

 2018年の10月に起きた、トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館でサウジアラビア人ジャーナリストが殺害された事件に衝撃を受けた人も多いでしょう。ISISに殺害されたジャーナリスト、後藤健二さんの事件も記憶に新しいと思います。  ジャーナリストやボランティアが紛争地で誘拐されたり殺害されたりするたびに、出てくる「自己責任」という言葉。自分の命を顧みずになぜジャーナリストは紛争地へ赴くのか――。そんな疑問に答えるかのような映画『プライベート・ウォー』が9月13日に公開されます。  黒の眼帯をトレードマークに、世界中の戦地に赴き、レバノン内戦や湾岸戦争、チェチェン紛争、東ティモール紛争を取材してきた伝説の戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィンの半生を描いた作品です。今回は、自らもドキュメンタリー映画監督として世界の紛争地へ赴くマシュー・ハイネマンに電話インタビューを行い、戦場ジャーナリストが危険を冒す理由からジャーナリストの自己責任まで話を聞きました。

心理スリラーとして戦場ジャーナリストの謎に迫りたかった

――典型的な伝記映画とは異なり、メリー・コルヴィンを戦場へ駆り立てた謎を探っていくような構成になっているところがユニークでした。 マシュー・ハイネマン監督(以下、ハイネマン監督)「私はこの映画を伝記物語ではなく、『メリーを戦争へ奮い立出せたのは何だったのか』という謎を解く心理スリラーとして描きたかったんです。つまり、危険な地域に行って仕事をする人物の心理を掘り下げていきたかった。ただ、メリーを演じたロザムンド・パイクにとって、時系列ではない撮影は本当に難しかったと思います」
(左)マシュー・ハイネマン監督、(右)ロザムンド・パイク

(左)マシュー・ハイネマン監督、(右)ロザムンド・パイク

――本作は、戦争ジャーナリストが抱えるPTSDやその影響が具体的にどのようなものか描いた、珍しい映画だと思います。 ハイネマン監督「取材をすることにメリーは、ある意味依存というか、中毒になっていました。そして戦争によるPTSDやトラウマと向き合うために、アルコール依存症的な部分もありましたし、愛人もたくさんいてセックス依存症だったと言う人もいます。  一見、モラルがなさそうに見えるけれど、これらは彼女の仕事の結果なわけです。何十年にもわたり世界中の紛争地域に足を運んで見たこと取材したことが、戦場ジャーナリストのメンタルや肉体にどんな影響があるのかを掘り下げたかったんですよね」

ジャーナリストにとって戦場と日常のバランスをとることは難しい

――ドキュメンタリーを通して人間の苦悩を描いてきた監督ですが、メリーのようにダークなリアリティと普通の生活とのバランスがとれなくなる……という経験はありますか? ハイネマン監督「そのバランスをとるのは難しいですね。ただ、ラッキーなことに私には温かい家庭があります。いつでも帰って来られる家がね……。暴力的な世界から抜け出して帰るところがある……ということが分かっているからバランスが取れるのかもしれません」 ――戦争記者と子育ては両立できそうもないのに、なぜメリーは子供が欲しかったのでしょう? ハイネマン監督メリーには普通の生活がしたいという切なる願いもあったからこそ、子供が欲しかったんだと思います。けれども、2回も流産し彼女の願いは叶えられませんでした。そういった叶えらない想いが彼女を戦場へと駆り立てて行った理由のひとつでしょう」
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真実を伝えるために難民を起用した
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