アメリカのオークションで入手した、made in Japanの陶器  【日々の雑器 Vol.6 茅野裕城子】

<茅野裕城子【日々の雑器】Vol.6>

いつからともなく、どこからともなく、わたしの回りには、さまざまな器が集まってきてしまう。

基本的にはずっと断捨離中ではあるのだが、それでも、旅する先々で、骨董市で、あるいは、実家のガレージの片隅に捨てられそうになっていたのなど、どうしても手にとって、持ってきてしまうものがある。
本当は、白い機能的で形のよい食器のストックがあれば、それでいいのかもしれないけど、人間、それじゃあ、飽きてしまう。

かといって、わたしは高級ブランド食器のフルセットとかも、持ちたくない。雑多で不揃いな器で、日々の食事をするのが楽しい。使っていると、器たちは少しずつ、なにかを語りかけてくる……。

【Vol.6ハワイのTIKI MUGの歴史】



ハワイ好きの人だったら、かつて、ヒルトン ハワイアン・ビレッジとイリカイの間に、さびれたWAIKIKIANの白い看板を覚えているだろうか。ハワイに通いはじめた頃、なにげなく、その看板に吸い寄せられるように入って行った小さな二階建ての時代に取り残されたようなホテルで、わたしは「TIKI」の世界を体験し、虜になってしまった。

WAIKIKIAN朝は、プールサイドのレストランの藁屋根の小屋みたいな席で、涙がでるほどおいしいバナナマフィンを食べる。ビーチで遊んで、夕方になると、植物に覆われた庭のトーチに灯がともされ、ムームーを来たひとが、ウクレレを弾きながら各部屋のラナイの前で歌ってくれる。夜が更けるまで、奥にあるパペーテ・バーでは、地元の人たちがピアノを囲んで歌っている。楽しそうだなあ、と降りて行くと、隣に座った日系のおじいさまたちが飲み物をごちそうしてくれる。おじいさまたちは、ウエスタンシャツを着ている。「ボクらはアメリカ人だけど、やっぱり日本のお嬢さんが好きなんだよ、」とウインクしながら差し出される飲み物は、マイタイやモヒートなどのトロピカル・カクテルで、なまはげみたいな南太平洋風の神様?が浮き彫りになった筒型の重たい陶器の器に入っていて、ハイビスカスや蘭やパイナップルのスライスなどで飾られている。これがティキ・マグというものだと知るのは、ずっとあとだったけれど。

TIKI mugそれ以来、TONGA ROOM(SF Fairmont hotel) 、KON TIKI(AZ Phoenix)、 Hawaii Kai(NY) などTIKIスタイルのサパークラブやバーやホテルを見つけると、うれしくなって入ってみた。調べて行くうち、TIKI文化というのは、実はハワイから生まれたものではなく、もともとメインランドで1950年代、爆発的に流行りだしたもので、第二次世界大戦で南太平洋に配属された兵士たちの帰還とともにもたらされた、曖昧なパラダイス空間だとか。また、ヘイエルダール「コンチキ号漂流記」などの冒険ものの影響も指摘される。

‘70年代に上陸した、古き良きハワイアンバー、ホテルニューオータニ「TRADER Vic’s」



ともかく、ブーム到来、アメリカの多くの都市に、TIKIレストランのチェーンも生まれる。そのひとつがTRADER Vic’s であり、1934年、オークランドでスタートしたこの店は、マイタイの発祥の地とも称される老舗で、70年代、たぶん、東京唯一のTIKIレストランだったニューオータニのそれは、ロンドン、ミュンヘンに次ぐ海外出店だったそうだ。(実は、ハバナヒルトンが、幻の海外第一号店だったそうだ)

そういえば、高校生のとき、デートでここへ来て、フレンチかと思っていたら、メインにマヒマヒとやらが出てきて、いたく失望したのを思い出した。で、先日、まだ、あったはず、行ってみようかな……と入って行くと、そこは、ほぼ開店当時のままの雰囲気。カクテルもそれぞれ違ったティキ・マグでサーブされる。なんか、天国! アメリカでは廃れに廃れ、いまや、TIKIバーを探すのは難しいから、奇跡的な場所である。

というわけで、いまや、TIKI MUGは、そんなポリネシアン・ポップを感じられるよすがである。トレーダー・ヴィックスでも、サモアン・フォグ・カッターというカクテル用のマグを買ってしまった。今までも、オンラインストア「ebay」などで見つけると、ときどき買っていた。発送されてきたマグをみると、新古品の底には「made in Japan」のシールが貼られていた。アメリカの大都市のバーで、エキゾチスムを演出していたなかば観光土産的陶器たちは、昭和の日本で作られ、輸出されていたというのも、今となっては趣き深い。

<TEXT/茅野裕城子>

茅野裕城子/ちの ゆきこ作家。東京生まれ。『韓素音の月』で第19回すばる文学賞受賞。『西安の柘榴』など、中国に暮らした体験をもとに、日中間の誤解や矛盾を描く作品が多い。また、ビンテージ・バービーのコレクターでもあり、『バービー・ファッション50年史』(共著/扶桑社刊)などの研究書も。このところ、キルギス、モンゴルなど中央アジアを旅することが多く、好物は、羊!

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