カリブ海・マルチニーク島でもらったクリストフルの栓抜き【日々の雑器 Vol.10 茅野裕城子】

<茅野裕城子【日々の雑器】Vol.10>

 いつからともなく、どこからともなく、わたしの回りには、さまざまな器が集まってきてしまう。

 基本的にはずっと断捨離中ではあるのだが、それでも、旅する先々で、骨董市で、あるいは、実家のガレージの片隅に捨てられそうになっていたのなど、どうしても手にとって、持ってきてしまうものがある。

 本当は、白い機能的で形のよい食器のストックがあれば、それでいいのかもしれないけど、人間、それじゃあ、飽きてしまう。

 かといって、わたしは高級ブランド食器のフルセットとかも、持ちたくない。雑多で不揃いな器で、日々の食事をするのが楽しい。使っていると、器たちは少しずつ、なにかを語りかけてくる……。

ゴーギャン、ラフカディオ・ハーンも暮らした美しい島



 アンティーユ諸島、つまりカリブ海に浮かぶ島々のなかでも、マルチニークやグアドループなどのフランス海外県の島が特に好きで、何度か旅した。かつては、ゴーギャンもラフカディオ・ハーンも暮らしたマルチニークには、わたしも魅了されっぱなしだった。
 まず、ひとの肌色が美しい。フランス植民地の頃、混血が進み、ムラートと呼ばれる彼ら彼女らの肌の色は、コーヒー色、蜂蜜色、カカオ色、ミルク紅茶色、麦の色、などなどそのバリエーションは数えきれない。アフリカ系、フランス系、それに後から労働者としてやってきたインド系などの血が、豊かに混じり合い、現在のマルチニークでは、美しい人たちが闊歩する。カフェに座わって、一日中、通りを行く人々を眺めていても、飽きることがない。  

 そんなとき、他のテーブルをちらっと見ると、みんなティ・ポンシュと呼ばれるラムのフルーツカクテルを飲んでいる。それも朝から!
 ラムは、ダークより、安い白ラムのほうが、絶対おいしい。クレオールの料理も、捨てがたい。メインひとつにつけ合わせ2品というのがクレオールプレートの通例だ。コロンボ・ド・プーレ(鶏カレー)とかアクラ(鱈のフライ)などのメインに、野菜2種を添える。これには米も含まれる。ブラジル東北部のバイーア料理でも、NYハーレムのソウルフードの店でも、この基本は同じだ。このシステムこそが、クレオール飯に通底する伝統だと思う。

美しい島の植民地の歴史と屈折したアイデンティティ



 あるとき、雑誌の取材でマルチニックのカーニバルに行った。この島のカーニバルはカリブ全体でも有名なもので、4日間行われるが、男女逆の衣装を着たり、最終日「灰の水曜」には、黒白の装いをしたり、独特な美意識が存分に発揮されると聞いていたので、楽しみだった。数日前に到着し、いろんな人を取材したり、わたしが地元テレビに取材されたり……。

 取材のなかで、マルチニーク島独自の音楽が当時、パリでも大人気となったグループ「Malavoi」のピアニストでリーダーのPaulo Rosine には、彼らの音楽のルーツはなにかと聞いてみた。
「これとかそれとか,言えない。カダンス、ビギン、マズルカ、アフリカ的リズム、ヨーロッパ的軽やかさ、自分が小さいときから聞いてきた、親の歌ってくれるもの、ラジオから流れてきたもの、それらすべてのものが混じり合っている」。

 そう、どこかにルーツを探し求めてもみつからない、渾然一体となった状態こそがクレオール文化なのだから。

 この島には、有名なジュエリーのお店があるというので、それももちろん取材した。
 “Adieu foulard Adieu madras Adieu grain d’or Adieu collier choux”(さらば スカーフ さらばマドラスチェック、さらば,金の首飾り)と 歌にも歌われたクレオール美人たちを飾っていた金のピアスやネックレスを作り続けている老舗である。
 例えば、細かい小さな花形の金のパーツを組み合わせた伝統的デザインは、tete negresse (黒人女の乳房)と名づけられ、驚くほど洗練されている。

イヤリング


 いにしえのクレオール美人たちは、こういう金目のものを男から
もらって、常に身につけていたのであろう。
 帰りに、店のマダムがおみやげにくれた「Christofle」の小さな箱を開けてみると、この栓抜きが出てきた。

栓抜き1

栓抜き2

 島の人は、パリ(もしくは本土)のことをメトロポールと呼ぶ。そのメトロポールの一番の老舗の銀製品ブランドに注文して、わざわざ作らせたこのお店特注の栓抜きを手に取ったとき、彼らのプライドとパリへの屈折した憧れが同時に感じられて、なんだかとても複雑な気持ちになった。

<TEXT/茅野裕城子>

茅野裕城子/ちの ゆきこ作家。東京生まれ。『韓素音の月』で第19回すばる文学賞受賞。『西安の柘榴』など、中国に暮らした体験をもとに、日中間の誤解や矛盾を描く作品が多い。また、ビンテージ・バービーのコレクターでもあり、『バービー・ファッション50年史』(共著/扶桑社刊)などの研究書も。このところ、キルギス、モンゴルなど中央アジアを旅することが多く、好物は、羊!

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