世界をめぐった「ウイロー・パターン(西洋化した楼閣山水図)」に秘められた物語をさぐる【日々の雑器 Vol.12 茅野裕城子】

<茅野裕城子【日々の雑器】Vol.12>

いつからともなく、どこからともなく、わたしの回りには、さまざまな器が集まってきてしまう。

基本的にはずっと断捨離中ではあるのだが、それでも、旅する先々で、骨董市で、あるいは、実家のガレージの片隅に捨てられそうになっていたのなど、どうしても手にとって、持ってきてしまうものがある。
本当は、白い機能的で形のよい食器のストックがあれば、それでいいのかもしれないけど、人間、それじゃあ、飽きてしまう。

かといって、わたしは高級ブランド食器のフルセットとかも、持ちたくない。雑多で不揃いな器で、日々の食事をするのが楽しい。使っていると、器たちは少しずつ、なにかを語りかけてくる……。

イギリスのアンティーク「ブルー・ウィロー」のカップ&ソーサー


 イギリスのアンティークが好きなひとなら、一度は関心を持つのが、このブルー・ウイローではないだろうか。
 18世紀後半から、ヨーロッパで作られるようになり、ポピュラーになっていった中国風のオリエンタルな模様には、実にいろいろな物語が秘められているらしく、その虜になるコレクターも多い。日本でも、たとえば、安西水丸さんがマニアックに蒐集していたというのが、有名であった。
 しかし、骨董にそれほど興味があるわけでもないわたしは、つい最近まで、派手すぎるし、西洋人が誤解した東洋に対するエキゾチズムの匂いがぷんぷんして、なんとなく好きになれず、手に取ってみることもなかった。
 ところが先日、百貨店の英国フェアを覗いていると、ふいにこのブルー・ウィローのお皿が目に飛び込んで来た。BURLEIGHというメーカーで、いまでは廃れて作られなくなったブルー・ウイローの現行品は、ここだけだそう。アンティークでないというのも、しっかりした普段使いなのも気に入ってトリオで購入してみた。

 家に帰って、繁々と眺めてみると、やはり面妖な図柄である。元はと言えば、東インド会社により景徳鎮の陶器がヨーロッパへ輸出され始め、貴重品であった頃、どうにか自分たちでも作れないかとの試行錯誤からはじまった。

ブルー・ウィロー


 18世紀後半に、イギリスで銅版の転写技法が生み出されたことも手伝って、ヨーロッパで、この「なんちゃって山水図柄」は、普及していくことになる。
 楼閣、二羽の鳥、柳(柳にはみえないけど)、卍型の垣根、橋、三人の人物、小舟などのアイテムが配されたこの絵柄のルーツはなんだろう。イギリスの古い詩に基づくなど諸説あるが、わたしは、高級官吏の娘クーン・セと身分の低いチャンとの悲恋の物語説が好き。身分の違う恋に激怒した父に殺されたふたりは、鳥になって結ばれた、というのである(クーン・セっていうのも中国語っぽくない発音だけど、どういう漢字なのか知りたい)。
 
 ともかく、当時のイギリスでは、Spodeをはじめ多くのメーカーで作られるようになり、海を渡り、アメリカへも。そして、日本へ。江戸時代末期には、日本にも世界を巡り巡って伝わるも、そのころには、中国からかつてダイレクトに伝わっていた山水の図柄とは似ても似つかぬものとなっていた。そうやって日本でもつくられはじめたブルー・ウィローは、戦後はオキュパイド・ジャパンの陶器としてアメリカに輸出されていたというから、もう、頭が混乱してしまう。

日本でも百年前から生産、歴史ドラマで安心して使える小道具



 さて、これを買ったとき、お店の人から、面白いことを教えてもらった。日本でも、ずっとブルー・ウィローの絵柄は作り続けられているというのだ。
 NHKの朝ドラをみていると「マッサン」だろうが「花子とアン」だろうが、昔のシーンで喫茶店やティールーム、もしくは家でのティータイムに、いつも登場するカップ&ソーサー。わたしは、たまたま家に同じものがあるので、これって、そんな昔の柄なんだろうか、と思いながら観ていた。なんと、あれが、ブルー・ウイロー柄だった。今まで気にしていなかったが、食器棚から取り出し、じっくりチェックすると、ほんとうに同じ。写真左が日本のブルー・ウイロー。

カップ


 調べたら、NIKKOというメーカーから「山水」という名前で、なんと百年以上も販売されている。
 なるほど、だから、時代考証に敏感なドラマで安心して使える小道具なのだと納得。たかが絵柄、されど絵柄。こうやって、人は、ウィロー・パターンの深みにはまっていくのだろうか。

<TEXT/茅野裕城子>

茅野裕城子/ちの ゆきこ作家。東京生まれ。『韓素音の月』で第19回すばる文学賞受賞。『西安の柘榴』など、中国に暮らした体験をもとに、日中間の誤解や矛盾を描く作品が多い。また、ビンテージ・バービーのコレクターでもあり、『バービー・ファッション50年史』(共著/扶桑社刊)などの研究書も。このところ、キルギス、モンゴルなど中央アジアを旅することが多く、好物は、羊!


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