自己啓発本にハマると陥りがちな“奴隷道徳”とは【アラサー女子の哲学入門】
【アラサー女子は哲学者である 第5回】
アラサーあたりになると、自己啓発本やスピリチュアル本にハマり出す、というケースを聞くことがあります。
私の周りでも、スピリチュアルやオカルトの類を毛嫌いしていたタイプの友人が、自己啓発本にハマり出し、「気」の代わりに「氣」という漢字をやたらと使うようになりました。
正直、友達が「気」と書こうが「氣」と書こうが、どっちでもいいのですが、逐一「気→氣」に変換したり、何かあるごとに「ご縁」「気づき」「引き寄せ」という言葉を連呼する友人をみていると、本心からそう思っているのか、若干の強迫観念からそう言っているのか、わからなくなる時があります。
本心から言っているのなら良いと思うのです。そうすることにより、自分の毎日や人生がより充実していると感じるならば、それは幸せだと思います。しかし、どこかで「常に感謝しなければ、幸運を逃してしまう!」とか「前向きに考えなければ、引き寄せられない!」といった強迫観念になってしまっているならば、「幸せになるための法則に振り回されて、幸せから遠ざかっている」という本末転倒状態に陥っているのではないでしょうか。
信仰心とは非常に難しいもので、何かを信仰することで、心が満たされ幸せな毎日を送れるケースもあれば、現実的な視点を曇らせて自分を騙しているというケースもあると思います。しかもこの2パターンはきっちりした線引きがないため、自分がいま心から幸せなのか、自分で自分を騙しているだけなのか、どちらかが曖昧だったりします。
30歳にもなると、「自分の歩いてきた人生は、はたして正しかったのか?」「この先、尻すぼみしてきて無難な人生に落ち着いてしまうのではないだろうか?」など急速に先行きが不安になる瞬間があります。
いまやっていることに希望がもてない、将来の展望が見えない、つぶしも効かない……といった危機感から、「自分は大丈夫!」と思える、自分を後押ししてくれる何かが欲しくなってきます。
「あなたはそのままで大丈夫!」と言ってくれる存在は、飲み屋のマスターでも、彼氏でも、雑誌の占いでも、なんでもいいのです。
その選択肢のひとつとして自己啓発本があると思うのですが、自己啓発本を、自分を啓発するためのものではなく「こうしなければならない」「こうしないと、私は幸せになれない」といった「マニュアル本」として付き合ってしまうと、結果、自己啓発本に振り回されてしまうのではないでしょうか。
哲学者ニーチェの考えで「奴隷道徳」というものがあります。
奴隷道徳とは、例えば「しんどい思いをしている分、私はいつか報われる」「楽に金儲けしている人はいつか不幸な目にあう」といった、弱者が抱きがちな考えのこと。その背景には、弱者が強者に対して感じる怨み(ルサンチマン)があるとニーチェは言います。
弱者は、いまがしんどい分いつか報われて、逆に楽してお金儲けしている強者はいつか不幸な目に遭うというように、”弱者も強者もプラマイゼロになる”と思いたいものです。
しかし、しんどければ成功するとは限りませんし、楽にお金儲けをすると不幸になるわけではありません。因果関係はないのに、因果関係があると思い込むことをニーチェは「奴隷道徳」と名づけました。
このように「○○だからいつか幸せになる」とか「○○をすると不幸になる」というルールは、実際はないものだと私は思います。そしてなによりも「○○しないと幸せを逃す」といった思い込み・強迫観念こそが、自分を幸せをから引き離すのではないでしょうか。
自己啓発本は、読んでも飲まれるな! といった距離感で、たしなんでみてはいかがでしょう。
<TEXT/原田まりる>
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【プロフィール】
85年生まれ。京都市出身。作家・哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。元レースクイーン。男装ユニット「風男塾」の元メンバー。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。ホームページ(https://haradamariru.amebaownd.com/)
先行き不安になるため自己啓発書を必要としてしまう
「○○しないと幸せを逃す」という思い込みが逆に幸せを逃す
原田まりる
85年生まれ。京都市出身。作家・哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。元レースクイーン。男装ユニット「風男塾」の元メンバー。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。
原田まりる オフィシャルサイト⇒ https://haradamariru.amebaownd.com/
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