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嵐の新曲、天才ブルーノ・マーズの提供で思わぬ化学反応が起きていた

 嵐の新曲「Whenever You Call」が、9月18日にリリースされました。アメリカのシンガーソングライター、ブルーノ・マーズ(34)が書き下ろした全編英語詞の曲です。  解禁される前から大変な話題を呼んでいたこの楽曲。一体どんな化学反応を見せるのだろうと楽しみにしていたら、思いのほか落ち着いた仕上がりになっていて驚きました。

予想外?新曲は落ち着いたバラードだった

 最も多くのグラミー賞を獲得したアーティストのギネス記録(計12個)を持ち、全世界で2600万枚のアルバム、2億枚のシングルセールスを誇る、ブルーノ・マーズ。2014年の第48回スーパーボウルでハーフタイムショーを務めるなど、名実ともに、アメリカと世界を代表するアーティストなのです。
24k Magic

ブルーノ・マーズの『24k Magic』は2018年のグラミー賞主要3部門を独占した

 そんなビッグネームを持ってくるのですから、わかりやすく気合が入るのかと思いきや、逆に冷静さと抜け感が心地よい。耳に優しいメロウなミディアムテンポのバラードで、これまでアイドルがやっていそうでやっていなかった領域に踏み込んでいるのではないでしょうか。  サウンドの組み立て方からして、異質です。色んな楽器の音が平べったく横並びになるJポップとは異なり、「Whenever You Call」は曲の始まりから、立体的な奥行きがあるのです。言葉をギュウギュウに詰め込まないから、嵐の歌もいつも以上にリラックスしている。サウンド、ボーカルともに、30代後半の男性らしい余裕のある表現になっているのですね。

BTSの曲と対照的な、ブルーノ・マーズの曲

 また、ブルーノ・マーズというチョイスもよかったように思います。起承転結のある歌のメロディを好む日本のリスナーにとって、彼の楽曲はとても馴染みやすいと思うからです。代表曲の「Just The Way You Are」や「When I Was Your Man」などからもわかるように、サビの前にフリを作ってくれるライターは、昨今の欧米チャートではレアな存在でしょう。  たとえば、先日ビルボードのシングルチャートで1位になったBTSの「Dynamite」を聴くと、すべてのセクションが同じコード進行で、どのフレーズもキャッチーで、一曲まるごとサビのような構成になっている。Blackpinkの「Ice Cream」も同様に、のっけからフルスロットルで攻め立ててくる迫力があります。  そうしたシャープな攻撃性はとても魅力的ですし、トレンドになっていることは認めざるを得ません。でも、それを日本人がそのままマネしたところで、様になるかと言われると難しい。ハングル語のアタック感がヒップホップによくマッチするとか、大陸でもまれた民族性とか、理由は様々でしょう。

嵐×ブルーノ・マーズは、なかなか練られた策かも

 そう考えると、ひょうひょうとした嵐の佇(たたず)まいに、情緒的なブルーノ・マーズという組み合わせは、なかなか練られた策だと思えてきます。歌を聞かせつつ、従来の歌謡曲とは異なる基軸を打ち出して、サウンドの組み立て方に一石を投じる。  ゆとりはあるのだけれど、だらけてはいない。音の数は限られているけど、乏しいのではない。攻めもしないかわりに、守りにも入らない。  豊富なキャリアに裏打ちされた、静かな緊張感。「Whenever You Call」で、嵐は今後の邦楽シーンのカギとなるヒントを残してくれました。 <文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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