だが、すべてがそううまくいくわけではない。若くても病気になるケースはあるが、年齢が上がるにつれ病に倒れる確率は上がる。

28歳のとき、二回り年上の男性と結婚したトシエさん(仮名・35歳)は、結婚半年で夫の脳梗塞という事態に見舞われた。
「健康で、同世代より元気だと思っていた夫だったから、ただびっくりしました。そのときは1ヶ月ほどの入院と数週間の自宅療養で仕事にも復帰したんです。ところがその1年後に再発。今度は半身に麻痺が残り、かなりひどい状況になりました」
リハビリ病院に転院し、その後は自宅療養となった。トイレには付き添いがあれば行けるが、万が一、転んだりしたらと思うと、夫から目が離せない。彼女は仕事を辞めざるを得ないところまで追いつめられた。
「結婚して初めてわかったんですが、夫にはたいして貯金もなかった。親の遺産があるなんて言っていたのも嘘だった。
そのときわかったんです。長年連れ添ったからこそ、情があって介護ができる。知り合って1年足らずで結婚していきなり介護なんて無理だ、と。だって夫をトイレに連れていくとき、私はいつも吐き気と闘うほど生理的に嫌だったんです」
人としてひどいことをしているとはわかっていたが、悩みに悩んだ末、彼女は離婚を切り出した。夫は泣いた。杖(つえ)を振り回して彼女を打とうとした。
それでも彼女は結局、身の回りのものをもって家を出た。ここで仕事を辞めて、もし夫が亡くなったら、それこそ生きていけなくなると思ったからだ。

30歳のとき離婚が成立し、そのわずか1年後に夫は亡くなった。
「私は早くに父を亡くしたせいか、ずっと年上の男性が好きだった。夫のことは好きだったけど、父親代わりにしたのかもしれませんし、財産があると思っていたことも否定しません。自分が物心ともに楽をしたいと思ったバチが当たったのかもしれないと痛感しました」