関ジャニ∞渋谷すばるの『歌』は、暑苦しいほど正直だ【初のカバーアルバム】
映画『味園ユニバース』や、テレビ朝日の『関ジャム 完全燃SHOW』などで熱唱する渋谷すばるの姿には、ただならぬ真剣味を感じます。
彼にとって、音楽はたしなみであるよりも、営みである。そう言われても納得してしまうほど、熱心に身を捧げていることが分かるように歌うのです。
『味園ユニバース』予告編
(監督:山下敦弘 主演・主題歌:渋谷すばる)
⇒【YouTube】映画『味園ユニバース』予告編 http://youtu.be/Sk-JI0rOyj8
かねてからボーカリストとして注目されていた渋谷すばるのファーストアルバム『歌』(2016年2月10日発売)は、全8曲がカバー。むしろオリジナルでないところに、自信と覚悟がうかがえます。
※試聴、プロモーション動画→http://www.infinity-r.jp/subaru/
リードトラックに「スローバラード」(RCサクセション)、シメは「SWEET MEMORIES」(松田聖子)という選曲からして、ガチです。
しかも、サウンドに統一感があることに驚きます。ただやみくもに音楽が好きなのではなく、サザンソウルやリズム&ブルースといった軸があって、趣味が広がっているのが分かる。ここでも、ただのアイドルの余興とは言わせない緊張感があります。
では、肝心の歌はというと、これが決して良いわけでも、巧いわけでもありません。「ファンキー・モンキー・ベイビー」(矢沢永吉)や、「マンピーのG★SPOT」(サザンオールスターズ)のようなアップテンポでは、ピッチがややシャープに上ずり気味。
「First Love」(宇多田ヒカル)や「元気を出して」(竹内まりや)といったバラードでは、エネルギーを持て余して、感情がこもりすぎている。若かりし頃のボノ(U2)を思い出す暑苦しさです。もしチケット代1万円払って、この歌を聴かされたら、「勘弁してくれよ」と思うかもしれません。
しかし、それでも渋谷すばるの歌は、大切なことを思い起こさせてくれるのですね。
それは、彼が選んだ曲が好きだという気持ちに、いささかのウソもない。その正直さが、声に乗り移っている。丸裸になった価値観や好みをさらしてもかまわない。
そうした恐れと向き合った歌なのですね。
自分の歌唱力と相談せずに選曲した勢いのまま、バックバンドを牽引している。荒ぶるボーカルの強弱や起伏が、バンドを操っているのです。
そのまっすぐな愛情は、「君がいないから」(玉置浩二)や「言葉にできない」(小田和正)での、ほとんどモノマネになってしまいそうな発声によく表れています。好きすぎてコピーになる寸前のところで、自分の声色に戻そうとする。そんなせめぎ合いが、声の震えとなって聴こえるところなど、実にスリリングです。
もっとも、ピッチの安定だとか、感情のコントロールだとかは、これから多くのシンガーを聴くなり、異なるタイプの楽曲を歌い込むなりすれば、改善される問題です。
それがクリアできれば、渋谷すばるは、日本のロビー・ウィリアムスになっているかもしれません。この、暴れ馬のような魅力を持った歌い手は、滅多に出てくるものではないのです。
初のアルバムをカバー曲で勝負した彼だからこそ、さらにスケールの大きな歌を聴かせてくれるはず。それに見合う器の持ち主だと、証明してくれた一枚です。
⇒【YouTube】Robbie Williams | Better Man Live In Moscow | LMEY Tour 2015 http://youtu.be/2lPSq9bGcnk
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
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アイドルの余興とは言わせない緊張感
暴れ馬のような魅力
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4