しかしこれだけで「Chandelier」は成り立ちません。こうした相反する気持ちに引き裂かれそうになりながらも、壮大なハーモニーやメロディラインが抵抗している。そして、悲しみの底で最も力強くなるSiaの絶唱。
言葉と音楽が反発しあうことで二面性が生まれると、楽曲はどんどん研ぎ澄まされていきます。「Chandelier」が、ただのヒット曲を超えて偉大な名曲である理由です。

これが、ナタリー・ポートマンの見せる複雑であいまいな表情に見事にマッチしている。ピンクのオープンカーで「love」と書く楽しさにも、どこか祭りが終わったさびしさがついてまわる。
エレガントであるためには厳しい断念と拒絶を受け入れなければならないという、ラグジュアリーブランドならではのポリシーがうかがえます。
香水の華やかさをアピールするのに、心身ともにすり減った依存症の曲を使うなんて、ふつうなら思いつかないですよね。でも、ディオールは平気でやってしまう。苦味を無視することは、美しさに対する冒とくだと考えているからなのでしょう。だからディオールのCMは圧倒的なのです。
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4