吉岡里帆『健康で文化的な最低限度の生活』は、生活保護への偏見を変えられるか
区役所の生活課に配属された新人ケースワーカー・義経えみるの奮闘を描く吉岡里帆主演のドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系、火曜夜9時~)。
初回の視聴率は7.6%でした。原作は柏木ハルコの人気コミックスです。
第1話(7月17日放送)では、右も左もわからないま福祉の世界に飛び込んだえみるが、先輩の半田(井浦新)たちが見守るなか、ケースワーカーとしての第一歩を踏み出しました。
しかしある日、「これから死にます」と電話をかけて来た一人の男性受給者にどう対応していいのかわからず、さらに後日、係長の京極(田中圭)から彼が飛び降り自殺したことを知らされ、自分が命を救えなかったことに打ちひしがれるのでした。
それから2ヶ月が経ち、えみるは半田のサポートを受けつつ、別の受給者である阿久沢(遠藤憲一)を借金の過払いから救い、達成感を噛みしめます。 けれども、借金が帳消しになった阿久沢は生活保護を廃止され、同時に「就労」という問題に直面します。その結果によっては彼が再び生活保護を受ける可能性も大いにあるわけで、生活保護が終わったからといってハッピーエンドでは決してありません。
ドラマを見ている私たちにも起こりうる現実問題を提示
社会におけるセーフティーネット、最後の砦(とりで)ともいえる生活保護。「手を差し伸べる」「手助けする」という気持ちはとても大切ですが、受給者や相談者の抱える“人生”を丸ごとすべて受け止めていたら、福祉のベテランならともかく、まだ新人ケースワーカーのえみるの場合は身も心も持たないでしょう。 「その人の気持ちや生き方にどこまで寄り添えるか」というフレーズも昨今よく聞かれるようになりましたが、多様な価値観や考え方のなか、それが果たして具体的にどういうことなのか、ひと言で説明するのはとても難しいです。 ドラマを見ている私たちでさえ、病気や退職、離婚、借金、親の介護などが引きがねとなり、いつどうなるかわかりません。同じ社会に生きる以上、生活保護は決して他人事ではなく、まさに今・すぐそばの世界なのです。 そんなひと筋縄でいかない状況のなか、最終回までに、えみるが人間的にどこまで成長し、自らの仕事にどういう決断をくだすのか、非常に興味深いところです。 格差が広がり続ける現代社会において、意図せず自活の道からドロップアウトしてしまい、ギリギリの暮らしのなかで毎日を必死に過ごしている人たちは確実に存在します。 これはヒロインの成長物語でありつつ、「あなた自身は、健康で文化的な最低限度の生活を送れていますか?」と視聴者に鋭く問いかけている社会派ドラマだと言えるでしょう。 <文/中村裕一> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
中村裕一
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