そういった無茶な要求は、「トイレハプニング」に留まりません。ちょっとした口論で声を荒げた旦那さんを前に、あかりさんが泣いてしまったある日のことです。

「その時は『こんなことで泣くのは100人中5人くらい。傷つく方がおかしいからそのマインドを治せ』と言われました。傷つくなっていうのも、おかしいじゃないですか。そのあなたに傷つけられてるのに。
彼自身はそういう発言に全く悪気がないんです。無意識の部分で、私をなめているんでしょうね。ああ言えばこう言う、というようなケンカが増えて、私が何を言っても、言い訳ばかりでいつも自分の非を認めてくれないんです」
家事、金銭問題、将来のこと。一緒にいろんなことをしていかなければいけない生活の中で、夫の悪意ない“高圧さ”を、「どうしても許すことができませんでした」とあかりさん。
支え合っていくはずの夫婦。なのに、虐げられているように感じる。彼は私の言い分や気持ちを、わかってくれようとはしない。そんな日々に疲れてしまったあかりさんは、数ヶ月前から実家に帰ってきています。
「まだ話が平行線ですが、多分近いうちに離婚することになると思います。
彼は未だに、何がだめでこうなってしまったのかわかっていないんです。その
悪気のなさこそ、私が許すことができない一番の理由です。悪気がないって、最悪ですよ。だって自分がどうして私を傷つけているのか分からないんですよ? 根本的に治すことができないな、そう思った決め手になったのは、それでした」
「トイレハプニング」もそれだけならば、いつかは笑い話になったかもしれませんが、積もり積もった小さなひずみは、お互いの関係に大きな溝を産むこともあるでしょう。男女の仲に限らず、気が付かないうちに作られた“フェアではない関係”は、気づいた時にはハラスメントになってしまっているかもしれません。自分自身の人間関係も、一度見直してみるべきかもしれませんね。
―シリーズ「
許せない一言」―
<文/ミクニシオリ イラスト/真船佳奈>
ミクニシオリ
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携わったのち、2017年からライター・編集者として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。Twitter:
@oohrin