――路上の盲目ギター弾き・ピーターがブランカと一緒に旅に出るストーリーですが、ピーターとは以前撮影した短編映画で知り合い、彼をもとに脚本を書いたと聞きました。
長谷井:ピーターと最初に出会ったのは、短編の『LUHA SA DISYERTO』の撮影中でした。マニラにある地下道でギターを弾いて、小さな子どもをお金の監視役にしていたんです(笑)。

ピーターと映画を作るのが僕の夢でした。この作品は彼とじゃなきゃ作れないと思ったんです。彼は連絡先をもたないから、フィリピンに入って彼を見つけだすのに1カ月半かかりました。
ピーター以外のキャストも、2カ月半の間に、朝9時から夜7時くらいまでスラムを歩きまわって探したんです。ヴェネツィア国際映画祭のプロジェクトはプレミアに間に合えばどんな過程を踏もうが構わなかったので、キャスティングにも納得がいくまで時間をかけられました。

役と同じ名前のピーター・ミラリ(右)/『ブランカとギター弾き』より
――本作の完成後、ピーターは突然亡くなってしまったとお聞きしましたが、彼はどんな人物だったのでしょう?
長谷井:フィリピンではキャストへのギャラは日払いのケースが多いんですが、ピーターは受けとるギャラすべてを困っている人や親戚に配ってしまう人。映画の最終日には5000円ぐらいしか持っていなかったんです。そのうち、「(人にあげるために)もっと金をくれ」って言いだす始末で(笑)。信じられないぐらい無欲なんです。

『ブランカとギター弾き』より
――劇中ストリートチャイルドとして登場するセバスチャンの表情が演技とは思えませんでした。セバスチャンはストリートチャイルドなんですか?
長谷井:セバスチャンは路上で生活しているわけではなく、家族と一緒にスラムで暮らす子どもです。映画の前は学校にも行っていなかったんですが、映画を撮影した後は学校へ行き始めるようになったらしいです。ただ、この前会ったときはもう行っていないって言っていました(笑)。

鮮烈な存在感を放つ、セバスチャン役の少年(右)/『ブランカとギター弾き』より
映画に登場してくれた子のうち何人かは、以前、スラムのゴミの山で撮影していた時に出会った子たちなんです。また会おうって約束してたから、いつかまたあの子たちを撮りたいと思っていた。実現できてよかったです。
――映画に登場したスラムの子どもたちは、映画に携わったことで人生に変化が起きたのでしょうか?
長谷井:映画製作スタッフのなかにはフィリピンで有名なプロデューサーもいて、「セバスチャンは何者なんだ!? すごい俳優になる」と言っていたんですが、そこがセバスチャンとうまく結びついているかどうかはわかりません。でも、もし将来日本で映画を撮るときがきたら、セバスチャンがバーテン役で出てくるかもしれないなと考えたりしています(笑)。