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ミステリーの女王・山村美紗のすごい半生と“三角関係”の秘密

 京都を舞台にしたミステリー小説を数百冊も執筆し、多くの作品がドラマ化され、「ミステリーの女王」の名を欲しいままにした山村美紗(1934-1996)。生涯で3000万部を売り上げ、100本以上が映像化された不世出の作家である。 山村美紗評伝 そんな彼女のドラマチックな半生を描いた異色の評伝が話題だ。『京都に女王と呼ばれた作家がいた ~山村美紗とふたりの男』(西日本出版社)である。著者は山村と同じ京都に住みながら執筆活動を続ける作家の花房観音さん。  なぜ今、山村美紗を題材に筆を執ったのか。花房さん本人に聞いた。(以下、一部敬称略)

これは京都最大のミステリーだ

――山村美紗といえば、一世を風靡したミステリー作家として大変な人気を博しました。ドラマ化された「山村美紗サスペンス」はいまだに再放送されています。同じ京都に住み、小説を書いている花房さんにとっては、どのような存在だったのでしょうか? 花房: 正直、ほとんど読んだことがありませんでした。私は「噂の真相」というゴシップ誌の愛読者だったのですが、そちらに登場する傲慢な振る舞いと、隣に住むミステリー作家との怪しい関係のイメージが強く、つまり下世話な興味しかありませんでした。 けれど小説家になり、私自身が京都に住み京都を描き、そうなると「山村美紗」という存在を意識せざるをえません。そんな中、「亡き妻の絵を描き続ける山村美紗の夫」の存在を知り、「これは京都最大のミステリーだ」と、一気に惹かれていきました。
京都

画像はイメージです

――『京都に女王と呼ばれた作家がいた~山村美紗とふたりの男』の作中では、山村美紗の生い立ちから丹念に追いかけている印象を受けました。裕福でインテリな家系に生まれながら、ものすごい苦労もしていることに驚きました。 花房: 私も、彼女の生涯を追っていくうちに、こんなに身体が悪くて、苦労して作家になったのだと知り、驚きました。派手好きで驕慢で編集者を従えて……というイメージしかありませんでした。今では考えられないぐらい、女性の地位が低く不自由だった時代に、「女は、母は家にいるべき、夫を立てるべき」という価値観に抗(あらが)って、けれど家族には愛を注ぎ込み生きてきた人だということも。 ――異性を虜にする魅力があった山村美紗は、相当にモテたとも書かれています。一方で作家デビューを果たす前後は、育児と執筆の両立をするために相当“トリッキー”なスタイルで育児したとも。 花房: とにかく新しい電化製品や機械が好きな方で、テレビを自作したこともあったそうです。幼い頃、娘の紅葉さんが外で遊んでいて、転んだりするとすぐに美紗さんが駆け付けてきたそうなんです。何かあるとすぐ来てくれるものだから、紅葉さんが「ママはスーパーマンなのかな」と思っていたら、実はワイヤレスマイクを仕掛けていて、小説を書きながら娘の様子を気にかけていたという話とか、すごく面白いですね。
山村美紗長編推理選集 (第3巻)

「山村美紗長編推理選集」 (全10巻の3巻、講談社)

編集者も知らなかった夫の存在

――「ミステリー界の女王」と呼ばれた山村美紗ですが、実生活での夫婦関係こそが最大のミステリーのように思えます。若くして結婚した夫はデビューする前から山村美紗を支え、人気作家になって派手な生活をするようになっても、自分の存在を押し消すようにふるまったように描かれています。  花房さんは夫とも会ったそうですが、どのような印象を抱いたでしょうか。 花房: 夫の巍さんとご縁が出来て、お話をする機会が増え、そこから聞いた美紗さんの話は、知らないことばかりでした。また、「不仲で別居」といわれ、美紗さんの生前は編集者ですら存在を知らなかった夫との関係は、実は世間でいわれていることと違うのを知りました。 巍さんは、とても穏やかで紳士的な方で、ただひたすら美紗さんを献身的に支え、「陰の存在」に徹しておられました。巍さんの話を聞く度に、「真実は何なのか」を探りたくなりました。
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夫と西村京太郎との三角関係
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