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バービー「デブ、ブス、処女という女芸人の役割に違和感」清田隆之らと語る笑いとジェンダー

清田:漁師さんの発言は肌感覚で嫌悪感を抱かなかったわけですが、他に仕事で嫌だと感じた発言で、はっきりNOと言ったこととかってありますか? バービー:芸人を始めたころは全然ジェンダー問題への意識がなくて。男芸人は女芸人のおっぱいを触ることがボケみたいな時代があったんですよね。私も、もれなくそうされる(おっぱいを触られる)感じだったんですけど、舞台裏で二人っきりのときに揉んできた奴がいて(笑)。それは嫌でしたね。 おぐら:舞台上ならOKだと思っていたんですか? バービー:舞台上はOKだし、舞台袖も第三者が見ていればボケですよね。サンドバッグ代わりです。 清田:マジすか……。ボケとして機能していれば嫌悪感はゼロという感じだった? バービー:当時はそうでしたね。爆笑が取れたときのおもしろさのほうが優っていたので。でも本当に誰もいないところで無言で触ってきた人に対しては、「はぁ?」って言いました。答えになってますかね。

どんなハラスメントでも芸人のボケをシラけさせたくない

おぐら:いま舞台に出て、触られることがあったら、どう対応しますか? バービー:それがどんなハラスメントであろうと、芸人がボケだと思ってアクションしたことをシラけさせるようなことはしたくない。「それは違うよ」とわからせるような返しで笑いが取れたらめちゃめちゃベストだけど、スカす態度はさすがに取らないと思います。何とか笑いは取ろうとするけど、顔面蒼白にはなるかもしれないですね(笑)。 清田:なるほど……笑いのプロの現場ならではの話ですね。 おぐら:お笑い芸人としてのバービーさんにとどまらず、『FRaU』のコラム連載や、個人として発言されているバービーさんが素敵だという声が高まっていて、オピニオンリーダーとしての期待が集まっていることについてはどう思っていますか?
おぐら2

「オピニオンリーダーとしてのバービーさんに期待が集まっている」(おぐら)

バービー:芸人としての自分は、逆セクハラのカリスマみたいなところがあるので(笑)、前と同じように過激なことはできないというか、そこはちょっと空気を読まなきゃいけないとは思いつつも、それでもまだやっていきたいというのが本音です。 清田:逆セクハラのカリスマとして(笑)。

お尻を出すのが好きなのも私

バービー:私、お尻を出すのが好きなんですよ。単純に自分でおもしろいなと思うことって小学生レベルというか変わってないから、まだまだそういうこともやりたいという気持ちはあって。 10年くらい芸人をやっているんですけど、バービーはみんなに作ってもらったものだと思っているし、連載やこういうイベントだったり、今やっている活動は本当に私の素の部分なので、こっちを好きと言ってくれる人がいることはすごくありがたいです。でも、お尻を出すのが好きなのも私だし、どちらかを切り離して捨てることはないですね。 清田:最後にひとつだけバービーさんに聞いてもいいでしょうか?  今日のトークのテーマである「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」は元々『ハムレット』から引用した言葉です。当時、ルターの宗教改革やコペルニクスの地動説などによってそれまで絶対的だった宇宙観に揺らぎが生じ、人々の混乱する心の内を表現した言葉だそうですが、僕は個人的に、ジェンダーへの意識が高まってきている今、自分たちの優越性に無自覚に生きてきた僕ら男性にも当てはまる言葉だと思っているんですね。このあたり、バービーさんのご意見をお伺いできればと! バービー:このままでいいのかと悩んでいる男性は、とりあえず、攻撃とは違う発信をしてほしいですね。 私のYouTubeの内容は、「レディースクリニックに行こう」とか「生理用ナプキンの使い方」とか、結構女性向けの回が多いんです。でも、そういう回に限って、絡みたくてしょうがない男子がすごい量で湧いてくるんです(笑)。「50日止まりません、血が。どうしたらいいのかバービーちゃん教えて」みたいなものすごいゲスい発言がコメント欄に続々と並ぶ。 そこで「男だってつらいんだぞ」というコメントを見つけたんです。でも、つらいんだったら話してほしいと私は思うんですよ(笑)。茶々を入れて攻撃してくるくらい、男性性を背負って生きることがつらいんだったら、まず教えてよ、聞くからさと。何がつらいのかを言えもしないのに、ゲスなコメントをしてみんなを巻き込んで不快にするのはどうかなと思うので。 清田:男性たちが苦しみを自分の言葉で語ってくれれば、そこからどうすればいいのか考えられるけど、なかなか発信されることがないですもんね……。 バービー:今までフェミニストは、弱者の立場からがんばってきたけど、最近の男性は、「自分たちも男性社会で男としての役割を押し付けられてつらい思いをしている弱者だ」と思いはじめているじゃないですか。「話を聞いてくれ」と言っている感じがする。女性も男性も互いに意見を伝えて、「合意点を見つけるために話し合おう」という攻撃し合わない土俵がひとつあったらいいなぁと思います。 清田:そうですね。自分の本もそういう土俵のひとつとして役立てたらいいなと思います。 バービー:今度は、SNSで送られてくるいやらしいDMについての話もしたいですね。卑猥な言葉や写真を延々送りつけてくる男性、たくさんいるので。だからそんなことしてないでちゃんと話そうよって(笑)。 ●清田隆之 80年、東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。『cakes』『WEZZY』『QJWeb』『an・an』『精神看護』『すばる』『現代思想』『yom yom』など幅広いメディアに寄稿。朝日新聞be「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(共にイースト・プレス)、単著に『よかれと思ってやったのに─男たちの「失敗学」入門』(晶文社)がある ●バービー 84年、北海道生まれ。07年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。男女の恋愛模様をネタにした「イエス、フォーリンラブ!」の決め台詞で注目され、人気を集める。FRaU WEBにてエッセイの執筆、TBSひるおびコメンテーター、TBSラジオ「週末ノオト」パーソナリティ、ピーチ・ジョンコラボ下着をプロデュースなど幅広く活躍。女性芸人の立場から、ジェンダー問題について考察した発言や記事が共感を呼んでいる。昨年末にスタートしたYouTube「バービーちゃんねる」は、再生回数270万回超の回もあり、好評配信中 ●おぐらりゅうじ 80年、埼玉県生まれ。フリー編集者。これまでの主な仕事に、テレビ東京の番組『ゴッドタン』の放送10周年記念本『「ゴッドタン」完全読本』(KADOKAWA)企画・監修、映画『みうらじゅん&いとうせいこう ザ・スライドショーがやって来る! 「レジェンド仲良し」の秘密』構成・監督、速水健朗との共著『新・ニッポン分断時代』(本の雑誌社)など。編集を手がけた、鈴木涼美・著『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』、山内マリコ・著『山内マリコの美術館は一人で行く派展』、川田十夢・著『拡張現実的』(いずれも東京ニュース通信社刊)が発売中 <取材・文/小川知子 撮影/福本邦洋 協力/代官山 蔦屋書店>
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